ご挨拶
永井良三
自治医科大学学長
第53回日本医学教育学会大会長
令和3年7月30日(金)および31日(土)の2日間にわたり、第53回日本医学教育学会大会を開催させていただくことになり、大変光栄に存じます。
自治医科大学は、地域医療に貢献する人材の育成を目的に、昭和47年に栃木県下野市に設立され、来年で創立50周年を迎えます。全国の都道府県から2名ないし3名の学生をお預かりし、きちんとした医学教育を行い、6年後に医師として再び都道府県にお返しするという使命を担っております。卒業生は9年間の地元での勤務を義務とし、卒業後直ちに地元で初期研修を行い、そののちにへき地の診療所に赴任いたします。この経験は、臨床医として成長するだけでなく、人間的にも地域の人々に信頼され、文字通り地域社会のリーダーとしての力を高めるものといえます。
この使命を果たすために、自治医科大学は平素の教育と学生指導に力を入れてきました。医師国家試験で高い合格率を目指すことは重要な目標ですが、自治医科大学にとっての真の評価は、多くの卒業生が地域で活躍することによるものです。しかし現在、医学は大きく変化しています。少子高齢化により、在宅医療と総合医のニーズが高まっており、さらに限られた医療資源を有効に活用するために、医療者、行政、住民の協議による地域医療構想が進められています。地域の医療は、経済や人口の問題、働き方の問題、医療資源の配置などが複雑に絡み合っています。これは簡単には解決できない問題であり、このため時代の変化に適応できる医学教育が必要です。
医療をはじめとする公的な仕事に従事する人たちには、基盤となる考え方を備える必要です。最近、“グローカル”という言葉をよく耳にします。これは、「“グローバル”、かつ“ローカル”な姿勢を大事にしよう」という生き方です。個人的・経済的な利益追求よりも他者との精神的つながりを重視する生き方、他者への慈しみ、集団への献身の精神などを「グローカル公共哲学」といいます。滅私奉公的な献身では持続せず、創造的に生きる必要があります。そこで今回の大会は、「活私開公」をテーマとしました。これは韓国の哲学者金泰昌氏の提唱によるもので、これからの医学教育においても大変重要な考え方です。とくにコロナ時代の医学教育はオンライン講義が増え、現場での体験が少なくなる可能性があります。また専門分化と統合の重要性が一段と高まると予想されます。
本学術集会で、コロナ時代に求められる医学教育とは何かを、参加者の皆様と議論できますことを楽しみにしております。