検査法・治療

検査法

冠微小循環障害の検査法

冠微小循環障害の成因には、冠微小血管の収縮反応の亢進と拡張反応の低下、およびその両者が関与しています(図6)。この両者の関与を、心臓カテーテル検査時に詳細に検討する必要があります。収縮反応の亢進は、冠攣縮誘発テスト(アセチルコリン負荷試験)で検討し、拡張反応の低下は、冠血流予備能(CFR)や微小血管抵抗指数(IMR)で評価します(図7)。わが国では、冠攣縮誘発テストを先に行い、次いで冠拡張反応を検査する順番が多いです(図7)。

1.冠攣縮誘発テスト(アセチルコリン負荷テスト)

冠動脈内にアセチルコリンを少しずつ注入し、冠攣縮の誘発テストを行います。心表面の太い冠動脈の攣縮は冠動脈造影で評価しますが、同時に、冠循環の出口である冠静脈洞にカテーテルを挿入して、冠循環の入り口である上行大動脈での2か所での採血をすると、冠微小血管攣縮を評価できます(図8)。心筋虚血がない場合は心筋は血中の乳酸を摂取して冠静脈洞の乳酸レベルは入口よりも低いですが、心筋虚血が生じると心筋は乳酸を産生するようになり、冠静脈洞の乳酸レベルが入口よりも高くなります。この乳酸値の逆転が心筋虚血の最も鋭敏な指標とされています。乳酸値の逆転(心筋虚血)が起こっているのに太い冠動脈に攣縮が生じていない場合、冠微小攣縮が誘発されたと評価します。

2.冠微小血管拡張能の検査

冠微小血管の拡張能を検査するためには、特殊なワイヤーを直接冠動脈内に挿入し、圧センサー付き温度センサーによる熱希釈法を用いた評価を行います。冠微小循環指標を求めるためには、安静時と、冠微小循環を最大限に拡張することによって得られた状態(最大充血状態)での冠動脈内圧と冠血流量の情報が必要であり、これらを組み合わせることによって冠微小循環指標を算出することができます。その主なものとして、①冠血流予備能(coronary flow reserve :CFR)、②冠微小血管抵抗指標(index of microvascular resistance :IMR)を解説します(図9)。

① 冠血流予備能(coronary flow reserve :CFR)

主にアデノシンなどの薬剤を用いて最大充血状態を得、その時の最大冠血流量を安静時冠血流量で割った値で求められます。つまり、心筋酸素消費量の増大に対し冠血流量を増加させ得る能力を表す指標ということになります。FFRやResting indexは心外膜の太い冠動脈の狭窄が有意かどうか(虚血を来すかどうか)を検討する指標ですが、CFRは冠循環全体(心外膜冠動脈と冠微小循環の両方)の指標となります。従って、CFRで冠微小循環のみを評価するためには心外膜冠動脈に有意狭窄が無いことが条件となります。CFRの正常値は2.0以上とされており、CFRが低下する病態としては、心外膜冠動脈の血流を制限するような有意狭窄が存在している、安静時血流量が増加している、最大充血時に冠血流の増加が抑制される、の3つが考えられます。CFRは最大充血時と安静時の冠血流量の比で求められるため、CFR単独では最大充血時か安静時か、どちらの異常なのか判別が難しいことがあり、その際には次に述べるIMRが有用な指標となります。

② 冠微小血管抵抗指標 (index of microvascular resistance :IMR)

Rは最大充血時の冠微小血管抵抗を示す指標であり、最大充血状態で冠内圧を冠血流量で除した値となります。IMRは、冠微小循環に加わる圧力であり、この圧力がかかった際にどのくらい血流が流れるのかを表したものといえます。IMR値は25以下で正常と判断されます。

図6 冠微小血管障害の主な病態

図6 冠微小血管障害の主な病態

図7 包括的冠動脈機能評価(東北大学方式)

図7 包括的冠動脈機能評価(東北大学方式)

図8 心筋乳酸測定による微小血管狭心症の診断

図8 心筋乳酸測定による微小血管狭心症の診断

図9 冠循環の拡張能の機能的評価

図9 冠循環の拡張能の機能的評価

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