会長挨拶

第57回日本移植学会総会 会長 小野 稔(東京大学医学部附属病院心臓外科 教授)

第57回日本移植学会総会 会長 小野 稔2021年9月18日(土)から20日(祝)の3日間にかけて、第57回日本移植学会総会を京王プラザホテル(新宿)で開催することになりました。今回の開催テーマを「成熟期に入った臓器移植」といたしました。2010年に臓器移植法が改正されて以来10年が経過し、脳死臓器提供は通算730例に達し、年間提供数も100例を超えようとしています。今後はさらに脳死臓器提供が増え続けると予想されています。
これまで、日本独自のメディカルコンサルタント制度によって非常に高い臓器提供率を維持しながらも、移植後成績も欧米と同等あるいはそれ以上の優れた結果を残してきました。わが国おいても脳死移植後10年の成績をようやく語ることができる時代になりました。一方で、脳死移植の増加によって移植医療が開かれた医療として社会に受け入れられる時代となりつつあります。メディアの脳死移植に対する論調も時代とともに変化しつつあり、移植医療が生み出す明るさと力強さを報道するようになってきました。
脳死移植の増加には脳死提供施設の移植医療への理解が不可欠となります。多忙な救急医療の現場における働き方改革を支援するさまざまな施策がますます重要になってくることは間違いありません。5類型病院における臓器評価や脳死判定等への協力体制の構築に向けた体制作りが動き始めたことは、今後の移植医療の円滑な推進にとって極めて重要であります。また、日本移植学会が推進する「互助制度」の円滑かつ実効性のある導入が移植実施施設の働き方改革の観点から不可欠となってくるのではないかと思われます。
新型コロナウイルス感染症は2020年11月になっても依然として全世界で猛威を振っています。日本移植学会はこの新規感染症にいち早く立ち向かうべく対策を講じてきました。まずはレシピエントおよびドナーの感染の可能性の排除、さらに移植医療に関わるすべての医療従事者の安全性確保の観点から、PCRの必要性を早くから提言してまいりました。さらにはwith Coronaの状況における安全な臓器移植の実施と管理についても検討を進めて指針を発しています。
わが国の移植医療はかくの如く成熟期に差し掛かりつつあります。これから10年後、20年後の移植医療の進むべき方向性を展望できるような学術集会を開催できればと考えています。会員の皆さまからの多くの発表と積極的な参加を賜ることができればと思います。2021年9月には東京に一堂に会して移植医療の将来を議論できることを期待しています。