少子超高齢社会に対応した適切な医療提供体制の整備として地域包括ケアシステムの構築が進められ、医療から福祉へ、施設から在宅への流れが加速している。また、医療・福祉の現場ではAIやICTの導入も急速に進んでいる。時代はまさに医療提供システムの転換期といえる。この転換期にあって看護の担い手はどのような能力を開発し、どのような看護を創造していけばいいのだろうか、看護をめぐる環境変化を知り、参加者個々人が救急看護の今後を展望する機会とする。

「1995年から2017年までの22年間の名目経済成長率は国連の統計によると世界平均が158％のプラスであるのに対しマイナスを記録した国が世界に2か国だけあり、それは内戦の続くリビアと日本だった（大石久和・2019）」という。平均所得の低下、非正規雇用労働者の急増等、私たちの暮らしは確実に貧困に向って進んでいる。モリカケ（森友学園、加計学園）問題に如実に表れた信じがたい官僚と政治家の所業。気候変動にともなう度重なる大災害と無力な国土…。にもかかわらず多くの国民の国に対する無関心と無反応がもたらす弛緩した空気の蔓延。ご講演ではわが国の危機を根源から解説いただき、救急患者を生む土壌（この社会）を改めて考える機会とする。

現代社会の危機の1つに「人権に関する知識不足」を取り上げる。
私たち看護師の行動の基本は人間の生命と尊厳の尊重である。救急看護の場はまさに生命と尊厳が危機にさらされている場といっても過言ではない。近年、看護師にはアドボケイトとしての役割が期待されるなど患者の意思決定の支援者としての役割も求められるようになっている。人権について深く学ぶことを通して患者の権利・看護師の権利を考える機会とする。

現代社会の危機の1つとして「女性の人権」を取り上げる。
少子超高齢社会を乗り切る新しい社会システムとして、「1億総活躍社会」が提唱されている。しかしながら、働く女性の前に立ちはだかる壁は厚い。「真に女性が輝く社会」の実現のために、働く女性が辿るライフコースについて学ぶ機会とする。

現代社会の危機の1つとして「都市の貧困問題」を取り上げる。
貧困研究の集積から「あいりん地区」の歴史と現状を知り、今日の都市の貧困の構造的問題を学ぶ中から、医療・福祉政策としての救急医療・看護をとらえなおす機会とする。

現代救急看護の危機の1つに「看護師の臨床推論能力の問題」を取り上げる。
日本語の「臨床推論」に相当する英語は「Clinical Reasoning（臨床行為の理由付け）」といわれる。診療上の思考過程を言語化することを重視しているであろうことが読み取れる。看護師は「看護過程」をツールとして用いて看護実践の思考過程を言語化してきたはずだが、「臨床推論」を新たに学び始めている。医師の診療上の思考過程を学ぶことから看護における臨床推論を深める機会とする。

現代社会の危機の1つとして、「巨大災害」を取り上げる。
地形学的に自然災害の多いわが国であるが、近年の気候変動下で頻発する巨大災害のたびに繰り返される対処の問題点を防災法制度の観点から学び、抜本的な国土強靭化について考える機会とする。

現代救急看護の危機の1つに「看護師の危機対応能力の問題」を取り上げる。
救急医療の対象者の背景の特徴、病態の特徴、治療の特徴、治療場の特徴、提供システムと協働者の特徴等、救急医療には一般的な入院医療とは異なる様々な特殊性がある。そして、それぞれの特徴にはそれぞれに「危機」が内在する。患者の救命に貢献する優れた救急看護師には危機対応能力が求められる。救急医療における危機と危機対応能力について学び、実践に活かす機会とする。

現代社会の危機の1つに「超高齢社会を背景とした医療・福祉のゆくえ」を挙げる。
厚労省の「保健医療2035年提言書」にみるように、今後の20年間に起きる高齢化のさらなる進展と技術革新による医療費の伸びが様々に指摘され国民皆保険の存続を危ぶむ論調などを巻き込みながら医療改革が喫緊の課題として取り上げられることが多い。医療・福祉はサービス財であると同時に公共財でもある。国民のための医療・福祉のあり方について学び、社会政策の中の救急看護実践を考える機会とする。

現代社会の危機の1つとして「多様な働き方」を取り上げる。
「働き方改革」の掛け声が高い。抽象的な表現であり今ひとつわかりにくい。1億総活躍社会とセットで語られることが多いが、果たしてこの掛け声は働く人に益をもたらすのであろうか。ここでは、救急医療の場で働く医療人のキャリアにまつわる様々な課題について学び、自身のキャリアをドリフトさせない方略について考える機会とする。

現代救急看護の危機の1つに「重症患者の救命後の治療に関する知識の問題」を取り上げる。
救急医療の第一義的使命は救命である。重篤な病態を脱した患者は原疾患の治療を開始するが、多くの救急看護師はそのケアに当たる機会は少ない。その代表的な症例として重度熱傷を取り上げる。重度熱傷の皮膚治療について学び、救命後長期にわたる治療を視野に入れた受傷直後からの看護の要点を考える機会とする。

現代社会の危機の1つに「虐待」を取り上げる。
昨今「虐待」という言葉を聞かない日はないほど様々な虐待のニュースに接する。児童虐待、配偶者虐待、高齢者虐待、障がい者虐待、職場では経営者による雇用者への虐待や先輩従業員の後輩への虐待等々である。救急医療の場が虐待やDVの被害者発見の場となることも多い。小児臨床における虐待の実際を知り、救急看護実践に活かす機会とする。

現代社会の危機の1つとして、「貧困がもたらす健康格差」を取り上げる。
わが国では、平均所得の低下や若者の非正規雇用者の増加、生活保護世帯の増加等々、国民の貧困化は確実に進展している。貧困の結果としての格差社会が社会や人の健康にもたらす影響について学び、健康格差を生み出さない社会・経済政策の在り方について考える機会とする。

現代社会の危機の1つに「環境問題とエネルギー政策」を取り上げる。
地球環境に大きな損害をもたらす事態を環境問題と大雑把にとらえるとして、私たちの日々の経済活動が自然資源や生態系の恵みを利用して成り立つ以上、地球温暖化・生物種の絶滅、水不足等地球環境に大きな損害をもたらす可能性がある。自然を損なうことなく、人類にとって持続可能なエネルギーはどうあるべきか、気候変動とエネルギー政策について学ぶ機会とする。

現代救急看護の危機の1つに「救急看護実践に伴う二次的トラウマの問題」を取り上げる。
災害や犯罪被害者の二次的トラウマ予防の必要性が広く認識されるようになり、悲惨な災害や事件・事故が発生した場合一般の人も「心のケア」を望む時代に入った。
救急看護の特殊性と二次的トラウマについて、川谷陽子先生には危険地域での豊富な医療体験の立場から、関根剛先生には心理学研究者の立場から、武用百子先生には看護学研究者の立場から講義をいただき討論を通して、救急看護における二次的トラウマの特徴と予防について学ぶ。

現代社会の危機の1つに「都市の貧困」を取り上げる。
都市の貧困の姿は日本の近代化の矛盾の露呈でもある。シンポジストの奥村晴彦先生、田熊清継先生、森亮太先生から、おおさか、かわさき、ささしまにおける野宿生活者、生活困窮者を生み出してきた歴史的背景と彼らが示す存在としての社会問題を臨床実践の視点を通してご紹介いただき、多くの知見を学ぶとともに討論を通して救急看護の課題を見出し、実践に活かす機会とする。

現代社会の危機の1つに「外国人受け入れ政策とそれに伴う問題」を取り上げる。
出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律が施行されて以降、外国人材の受け入れが進められている。一方で国民の中に不安が多いことも事実である。室伏謙一先生には、改正入管法に伴う政策的課題について講演をいただき、大谷則子先生には、外国人看護師の看護実践の現状と課題について、新垣智子先生には、日本における外国人看護の実際とこれからのグローバル看護についてご講演をいただき、討論を通して外国人との共生社会とその中での救急医療・看護の課題について学ぶ機会とする。

働き方改革（主に医師）、多様なチーム医療の推進が進められているなかで、看護師の特定行為の「救急パッケージ」が認められ、「救急救命士が医療機関で業務」　の提言があり、おそらく令和2年度には法制化に至るのではないかと言われている。まず、加藤正哉先生から医師の働き方の問題と改革の進捗についてご講義いただき、続いて増山純二先生から特定行為研修修了者として変化した看護師の働き方についてお話をいただく。最後に秋田健太郎先生から救命救急部門における医師の働き方改革から連動して生じた救命救急士の変化についてお話しいただく。

現代救急看護の危機の1つに「救急看護の提供システムの変化」を取り上げる。
今後ますます進展する人口の高齢化、都市の人口集中と限界集落、少子化と労働人口の減少等を踏まえ、救急看護の提供システムも大きな転換期を迎えることが予測できる。多様な形態の救急看護実践の場から、高野裕子先生にはフライトナースの立場から、井上佳世先生にはドクターカーナースの立場から、宮原めぐみ先生には訪問看護の立場から、嶋田安希先生には院内救急看護の立場から、それぞれのご経験に基づく現在の問題点と今後の展望を発表頂き、フロアの皆様と意見交換を行い課題解決に向けて問題意識を共有する。

現代救急看護の危機の1つに「限界集落における高齢者の健康問題」を取り上げる。
東京一極集中が加速する中で山村や離島等では過疎化・高齢化が進展している。人口の50％以上が65歳以上の高齢者が占める集落を限界集落と呼び、冠婚葬祭を含む社会的共同生活や集落の維持が困難に窮している。杉岡秀紀先生には、地域経営学研究者の立場から限界集落の実態を紹介いただき、岡裕也先生には限界集落における地域医療の実践について、岩井惠子先生には限界集落における高齢者の健康問題、中村陽子先生には限界集落における終末期ケアについての実践と課題についてそれぞれご紹介いただき、その後フロアの皆様も交え討論を深め課題を共有する。

現代救急看護の危機の1つに「救急搬送をめぐる問題」を取り上げる。
急病者は119番通報をすることによって安全確実に救急医療に到達できる。しかしながら救急搬送をめぐる問題は深刻である。救急利用の増大化・多様化の問題、医療体制と搬送体制の連携の問題、医療機関の受け入れ能力の限界、救急医療のコストと医療費抑制政策等々課題は大きい。稲村あづさ先生には119番利用の体験者として、小田浩文先生には救急搬送の立場から、山本啓雅先生には救急部医師の立場から、阿部雅美先生には救命センター看護師の立場から、実際に即した課題をご発表頂きフロアの皆様を交え意見交換を通して問題を共有する。

救急医療の第一次的使命は「救命」である。救急患者（受診意図のない場合でも搬送の結果として救急患者となる）は、病態はもとより受診の背景が多様であり、治療後の転帰もまた様々である。救急現場では「救命はした」。「けれど…」患者側からすれば新たな課題を生むケースも発生する。自死を達成できなかった患者のその後、救命はされたが完全なる人間性の復活は望めない患者とその家族のその後等、救急看護師は救急現場ならではの苦悩と対峙しなければならない。安田冬彦先生には「救急医療と倫理」について、狹川普文先生には「命とはなにか、命を救うとはどういうことか」について、太田裕子先生、阿部美佐子先生には「救命はしたけれど課題を残したケアの体験」を発表頂き、「救命」にまつわる現場体験を共有し、「命を救う行為の意味」について深く学び考える機会とする。

教育講座では、危機の時代の感染症対策を取り上げる。次々と襲い来る新型感染症の背景には地球温暖化の進展やグローバル化が進みヒトやモノの行き来が国境を越えて、迅速・大量になったことがある。講座では、新型感染症（SARS，MEAR，新型インフルエンザ，2019-CoV）の検疫業務の経験をお持ちの講師を迎え検疫所の看護師の役割についてお話を伺う。

救急医療のスタートはバイスタンダーによる救命である。学術集会の地域貢献として市民公開講座では、多くの市民に正確な救命技術を楽しく学んでいただくべく救命講習第一人者による講座を企画した。

日本臨床救急医学会では、平成20年1月に「学校へのBLS教育導入に関する検討委員会」を設置し、「学校教育に実技を伴うBLS教育を普及・導入すること」を最終目標に鋭意活動に取り組んでいる。ワークショップでは、実際に学校でBLS教育を行っている教諭と学校BLSの普及活動に取り組んでいる看護師から報告をいただき、参加者との意見交換を通して、学校における救命教育の推進の場としたい。

超高齢社会を迎え、救急を受診する患者の背景が変化してきている。中でも、救急受診後の帰宅困難者といわれる社会基盤がぜい弱な患者の対応に救急現場のスタッフは困惑している現状にある。また、急性疾患を発症した患者が介護者であることも多く、救急現場における社会的アセスメントが必要に迫られている。そこで、我々の救急現場における社会的アセスメント力の向上にむけ、ワークショップにおいて介入困難事例の解決方法を学ぶ。