ご挨拶
当番世話人 波多野 悦朗
京都大学医学研究科 肝胆膵・移植外科 教授
このたび、第15回肥満と消化器疾患研究会を2025年(令和7年)4月23日(水)に順天堂大学小川講堂、有山登記念館講堂で開催させていただくこととなりました。
今回のテーマは「肥満がつなぐ消化器疾患」といたしました。
本研究会は日本消化器病学会にあわせた関連研究会として開催され、肥満に関連する消化器疾患の病態解明や、予防・診断・治療法の発展に取り組んできました。日本消化器病学会の菅野健太郎前理事長のご提案により、「肥満・栄養と消化器疾患」諮問委員会が発足し、2011年に恩地森一愛媛大学名誉教授を代表世話人として、日本消化器病学会総会の附置研究会として第1回「肥満・栄養と消化器疾患研究会」が開催されました。その後、2014年以降は日本消化器病学会関連研究会へと移行し、代表世話人として坂井田功先生、竹井謙之先生、そして令和3年からは池嶋健一先生が本研究会の発展に努められております。
さて、2025年の第111回日本消化器病学会総会を慶應義塾大学の金井隆典教授が会長として主宰され、「臓器がつなぐ消化器病学」という壮大で素晴らしいメインテーマを掲げておられます。このたび、関連研究会の立場から、この「つなぐ」というキーワードを共通のテーマとして採用いたしました。
昨今、肥満と生活習慣に起因する代謝性疾患が世界的に増加傾向にあります。わが国でも肥満やメタボリックシンドロームの著しい増加を、日常診療において肌感覚で実感する時代にあり、肥満と関連疾患の予防と治療が重要な課題となっています。消化器疾患の領域において、肥満関連疾患は胃食道逆流症や胆石症のほか、脂肪性肝疾患SLDが代表格としてあげられます。近年、MASLD/MetALDという新たな分類の提唱により、心血管代謝リスクに関連するSLDが明確に定義づけられました。肥満および飲酒を含めた生活習慣に起因する全身のリスクと、肝臓の疾患表現型としての脂肪肝の「つながり」がクローズアップされ、新規分類に基づくMASLD/MetALDの病態解明と予防ならびに治療法の発展に期待が持たれています。また、肥満は消化器癌のリスク因子でもあり、生活習慣に起因する代謝異常の管理と治療は癌の予防および治療成績向上の観点からも重要となります。さらに、肥満に併存する心血管代謝関連の合併症は癌に対する内科的・外科的治療の大きな障壁となることもしばしばあります。肥満に伴う代謝機能障害が、慢性炎症、免疫応答、神経内分泌、腸内細菌等を介して臓器のネットワーク「つながり」に多大な影響を及ぼすことから、これらに対する予防的・治療的介入には、診療科を超えた集学的アプローチと、多職種連携の「つながり」が課題となってきます。
本研究会の主題は、①「肥満と癌診療の現状と課題」②「消化器からみた肥満治療(内科・外科)の現状と課題」といたしました。臓器別、診療科別、基礎臨床の垣根を超えた集学的な視点で活発な議論ができれば幸いです。本研究会を通じて、肥満を介した消化器疾患の病態解明と治療成績向上を目指したさらなる発展に期待しております。