「ネクストステージへの飛躍」
当番世話人 武井 寛幸 日本医科大学 乳腺外科 |
COVID-19のパンデミックにより社会生活が大きく変化しているなか日夜ご尽力されている医療関係者また国民の皆様とともにこの感染症が収束に向かうことをこの場をお借りして祈念申し上げます。
センチネルリンパ節の概念が乳癌の臨床に導入されてから四半世紀以上の歳月が過ぎました。最大の福音はセンチネルリンパ節生検によって多くの患者さんで腋窩リンパ節郭清の省略が可能になったことです。
センチネルリンパ節の概念は「腫瘍からのリンパ流が最初に流入するリンパ節が存在し、転移形成もこのリンパ節から始まる」というものです。この概念はおそらくほとんどの固形癌に当てはまると思われますが、リンパ流の経路が複雑な臓器ではセンチネルリンパ節の同定の困難さが障壁となります。この点で乳癌や皮膚腫瘍はセンチネルリンパ節生検の良い適応です。一般にセンチネルリンパ節の転移の有無でリンパ節郭清の適応が決定されます。乳癌では転移の状態、乳房の手術術式、放射線治療の有無、さらに、薬物療法の有無などによって、センチネルリンパ節転移が陽性でも腋窩リンパ節郭清が省略されるようになりました。さらに、センチネルリンパ節生検自体を省略する臨床研究も開始されています。
一方、乳腺や皮膚以外の臓器に発生した腫瘍に対するセンチネルリンパ節生検も臨床導入に向けて開発が進んでいます。消化器外科、婦人科、頭頚部外科、口腔外科、泌尿器科、胸部外科、それぞれの領域におきまして、センチネルリンパ節転移陰性ならば、リンパ節郭清が省略でき、その恩恵が患者さんに届くように、日進月歩で前進しております。
センチネルリンパ節に補足されるトレーサーとして一般に色素、蛍光色素、放射性コロイドが用いられています。放射性コロイドは体表からの検知が可能ですが、被曝や取り扱いの煩雑さなど欠点です。一方、磁性ナノ粒子とそれを感知する磁気プローブは体表からのセンチネルリンパ節の同定が可能であり、かつ、放射性コロイドの欠点がない新しい手技です。この方法によるセンチネルリンパ節生検の臨床研究が国内外で行われています。
本研究会は、1999年に故北島正樹先生が第1回の世話人を務められました。北島先生におかれましては2019年5月21日急逝され、その悲報は多くの方々の悲しみに包まれました。北島先生のお考えは愛甲孝先生(前代表世話人)、井本滋先生(現代表世話人)に引き継がれ、センチネルリンパ節生検は多くの癌腫において着実に発展しており、現在もネクストステージに向けての飛躍の過程にあります。
パンデミック以降、本学術集会の開催について検討して参りましたが、感染がやや落ち着いてきていること、ただし、第二波のリスクがあることから、1日に短縮して開催させていただくことになりました。
開催期間は短くなりましたが、センチネルリンパ節に関する演題を臓器横断的に幅広く募集いたします。多くの皆様からのご演題のご登録、そして、研究会へのご参加を心よりお待ちしております。日本医大乳腺グループ一同、誠心誠意準備して参りますので、何卒宜しくお願い申し上げます。