会長挨拶

会長:杉浦真弓

第69回日本生殖医学会学術講演会・総会
会長 杉浦 真弓
(名古屋市立大学大学院医学研究科産科婦人科 教授)

第69回日本生殖医学会学術集会を2024年11月14日(木)~15日(金)に、ポートメッセなごやにおいて開催させていただきます。愛知県での開催は、故八神喜昭教授が平成3年に第36回日本不妊学会を主催されて以来、33年ぶりの開催になります。

テーマは「不育症から学ぶ。」とさせていただきました。 不育症は妊娠経験者の5%と高頻度でありながら、診療できる知識・技術を持った医療従事者が少ないという課題があります。患者さんが流産を隠す傾向にあるために、一般的な認知度が低いという課題もあります。抑うつ・不安障害の発症が15 – 40%と多く、離婚率も流産回数が増えるほど上昇することがわかっています。

日本産科婦人科学会は、1998年の見解策定以来禁止してきた着床前染色体異数性検査PGT-Aを、2022年1月に一定の条件の下で実施できるように見解を改定しました。同年4月からは体外受精の健康保険適用が開始され、日本の生殖医療が大きく変革を遂げました。着床前遺伝学的検査は胚の廃棄、優生思想という批判がある医療であり、法制化が求められながら学会の見解によって規制されてきた歴史があります。現在、体外受精実施施設600中約220施設がPGT-Aを実施しています。不育症の知識・技術を避けて通ることはできません。

着床障害という病態は、現在、標準化された定義がありません。不育症には胎児・胎芽側の異常と子宮内膜側の異常があります。私たちは散発流産だけでなく反復流産でも41%に胎児・胎芽染色体異数性がみられ、染色体正数性の原因不明不育症は25%にとどまることを明らかにしました。流産回数が多いほど染色体異数性流産は減少します。同じことが体外受精反復不成功例でも当てはまるでしょう。PGT-Aによって正数性胚を移植しても妊娠しない場合に子宮内膜側の異常と考えられます。流産絨毛ではmonosomyはめったに見られませんが、胚盤胞ではtrisomyとの割合は1:1であることが報告されています。これは、異常が大きいほど早期に淘汰されることを意味します。習慣流産の治療として夫リンパ球による免疫療法が1981年から1999年に生理食塩水とのRCTで効果が否定されるまで世界中で実施されてきました。論文がひとつあれば正しいわけではなく、検証が必要という教訓となっています。免疫療法はsemi-allograftである受精卵が拒絶されずに受け入れられる免疫学的妊娠維持機構が理論的根拠でした。不育症・習慣流産の研究は生殖免疫から始まりましたが、genetic, epigeneticの関与も明らかになりました。免疫学的拒絶はより早期、不妊症で起こっているのかもしれません。

多くの皆さんにご協力いただいて実りある学術集会にしたいと考えております。よろしくお願い申し上げます。

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