会長挨拶
第38回日本臨床栄養代謝学会学術集会
会長 小谷 穣治
(神戸大学大学院医学研究科外科系講座
災害・救急医学分野)
この度、歴史あるJSPENの第38回学術集会(JSPEN2023)を担当させていたくこととなり、皆様に心より感謝申し上げます。大いに学び、大いに遊び、開放感とともに次のステップに飛び出す、「Jump!」できる学術集会にできるよう教室員、そして栄養管理部の職員、そして兵庫県を中心としたプログラム委員会のみんなで全力を尽くして準備してきました。公募いただいた演題数は【816題】となりました。多くの演題を応募してくださり、まことにありがとうございます。会期まであと1ヶ月を切りましたので、会員の皆様にJSPEN2023のコンセプト、概要、目玉企画をご紹介いたします。
<新型コロナ>
奇しくも、JSPEN2023の開催前日の5月8日(月)から5類に移行になります。さらに会場では感染防止のための最大限の対策を行っておりますので、どうぞご安心ください。初夏を迎える神戸の地で、多くの方の「現地参加」をお待ちしております。
<私とJSPEN>
私は1987年に神戸大学の消化器外科に入局しましたが、そこには第2代JSPEN理事長大柳治正先生がおられ、臓器別の考え方ではなく、手術侵襲による代謝変動や栄養療法など生体反応をトータルで考える学問に大変感銘を受けたのが、JSPENとの最初の関わりでした。これをきっかけに、キャリア前半の15年間は消化器外科医として周術期や低栄養、がん治療の栄養療法、その後は外傷・救急外科医および集中治療医として重症病態の栄養治療を中心にJSPENの皆様とともに本邦の栄養治療の発展に関わらせていただいております。医師となって以来私の学術活動の中心であり続けるJSPENの学術集会会長を拝命したことは、大変な栄誉であり、責務の重さに身の引き締まる思いです。
<基本的なコンセプト>
学術集会の準備を始めるにあたって、人の人生における栄養の意義を考えてみました。私のイメージを描き下ろしてみました(図)。横軸に疾患を置き、縦軸に時間をプロットしています。この図を眺めながら以下の解説を読んでいただけるとわかりやすいと思います。
- 癌:日本人が一生のうちにがんと診断される確率は男性65.5%(2人に1人)、女性51.2%(2人に1人)で、がんで死亡する確率は男性26.2%(4人に1人)、女性17.7%(6人に1人)で、今や死因順位が1位です。しかし、癌は罹患する前に準備期間があります。将来に癌になることを想定して、日頃から癌治療を乗り切るための体力増進・併存疾患のコントロール、そしてサルコペニアでは手術や抗癌剤治療後の予後が悪くなるのですから「筋肉の貯筋」をしておくことが肝要でしょう。癌になったあとは周術期におけるERAS、その後の栄養とリハビリ、放射線や化学療法中、がんを克服した癌サバイバー、残念ながら再発したり癌治療に不応となった終末期など、それぞれにふさわしい栄養はなにかを考えるテーマが並びます。
- 急性疾患:外傷、心筋梗塞、肺炎、膵炎など、ある日突然発症する急性疾患では、治療前に介入する準備期間はありません。したがって集中治療室(ICU)では早期栄養介入(2020年から加算対象になりました)、セデーション中の電気刺激による強制的な筋肉運動、人工呼吸器を装着したままの歩行訓練などが有効でしょう。また、最近では急性期の死亡率が急速に下がっていますが、それゆえにICU survivorsが自宅に戻ったあと、半年、1年、3年後の身体機能の低下(Intensive care unit-acquired weakness (ICU-AW))や精神的な問題、さらにはその人を支える家族の同様の問題がクローズアップされており、Post-Intensive Care Syndrome(PICS)と定義されています。中でもICUでの早期の栄養治療と運動療法がPICS予防に有効なことはわかってきました。
- 生活習慣病と老化:最近では平均年齢が延びていますので、長い人生を元気に生きる、病気の期間を最短化する、ピンピンコロリを目指す(超高齢化社会でも医療費がかからない仕組みを作る)などが人生を幸せに生き抜くコツではないでしょうか。そのためには、急性疾患への備えと同じく、貯筋・体力増進・併存疾患のコントロールを若いときから心がけることが必要でしょう。もし重篤な急性疾患にならなくても健康に生きるために大いに役立ちます。そして、超高齢まで生き抜いた人生の終焉期には、在宅なら食とリハビリ運動、療養型病院や施設に入ったならきれいな最期を迎えるための栄養療法(そもそも栄養が必要なのかという疑問もあります)を考えなければいけません。しかし、人生の終焉をどのように迎えるかは、それぞれの人生観や家族の状況、さらには医療費も考えなければならず、明確なコンセプトもまだ形成されておらず、現場では混乱があるように思います。
- 健康に生きる:栄養は病気を乗り切るためだけではなく、人生をゆたかに生きるためにも大切です。健康的に生きたい、美しい身体を維持したい、女性であれば妊娠・出産でも栄養は重要な治療になりえます。また、高齢になっても活力あふれる人生にするためには、日常的な筋トレ、エクササイズ、美容のケア、栄養源としての宅配弁当、SDGsな食事配給システム、蛋白摂取の増進(朝からステーキ!サプリメント!)、運動として高齢者向けのフィットネス、ラジオ体操、ヨガ、太極拳など様々な介入が有効でしょう。
- まとめ:人生100年と言われる社会になり、栄養は病気の治療に有効であることはもちろんですが、病気にならないため、病気になってもそれを乗り越えるため、病気にならないけど高齢になったときのため、さらには健康で美しく活気にあふれて最期まで生きるためにも大いに役立つ「治療薬」なのだと思います。
<企画の全体像>
コンセプトに基づいて以下のセッションをご用意しております。詳細は、HP内の説明を御覧ください。
<目玉企画>
- 特別講演:
藪恵壹 様(元阪神タイガース)、沢松奈生子 様(元プロテニスプレーヤー)國澤純 先生(腸内細菌と健康、美容)、谷本道哉 先生(NHK「みんなで筋肉体操」の指導者)をお招きして、貴重なお話を伺います。 - 海外招待演者の講演:
周術期、癌、緩和医療、救急・集中治療などすべての医療領域の第一人者である16名の先生方にご講演いただきます。依頼時はまだコロナ禍真っ只中でしたので、多くはweb講演だろうと予測していたのですが、なんと14名の先生方が現地参加されます。すべての講演で同時通訳を入れておりますので、英語が苦手な方も安心してお越し下さい。 - 教育講演と特別企画:
全部で17講演あります。テーマも栄養に関わる多くの領域のエキスパートの先生方にお願いしました。 - 合同セッション:
今回は栄養治療とコラボすると大きな効果が狙えると考えられる領域のリーダー的な9つの学会にお願いしました。 - ガイドライン委員会報告:
私が委員長を務めてきたガイドライン委員会では、JSPEN初となるMInds方式に則ったガイドライン「がん患者のための栄養治療ガイドライン(仮名)」を作成しており、ほぼ完成しました。JSPEN2023では、多くの会員の皆様にガイドラインとは何か、どうやって作るのか、それがわかるとどのように使うべきか(辞書じゃない、最後は自分で考えるべき)、コンセンサスブックとどう違うのか(ガイドラインはエビデンス評価に基づく科学的な推奨、コンセンサスはこうあるべきというJSPENの意見です)などをこの報告会で知っていただいてガイドラインを現場で正しく活用していただきたいと思います。
その他、たくさんの企画がありますので、是非HPを検索してみて下さい。きっとワクワクした気持ちになってくると思います。
- JSPEN市民公開講座 「食・健・幸 健康・幸せになるための食事を考える」
神戸大学栄養管理部の高橋路子先生の企画です。神戸大学、大阪母子医療センター、伊勢神宮など多施設の有志が、食健幸プロジェクトと称して、「食」を通じた社会全体の健康増進・疾病予防を推進する活動を行なっています。なぜ伊勢神宮???それは、伊勢神宮では約1500年も前から1日も欠かすことなく朝夕2度の神さまの食事(神饌)をお供えする日別朝夕大御饌祭が執り行われており、諸説はあるものの、この神饌こそが和食の起源だと考えられているからです。この公開講座では、医療関係者だけでなく、伊勢神宮司廳広報次長にもご登壇いただき、市民の皆様の健康と幸福を願ってお話をさせていただきます。 - 学会バザーブース:障害者支援施設の運営:
障害者を支援する福祉作業所の方々が丹精込めて作った商品を販売しています。是非お立ち寄り下さい。 - 懇親会:
長年懇意にしている世界的ギタリスト、吉田次郎さんのお声がけで、マリーン(Marlene)さんなど世界で活躍するトップミュージシャンの方々が“採算度外視で”集まってくださいました。この中に私も入れていただき、ギターを弾かせていただきます。食事は神戸の美味しい食材をご用意しております。人数制限はありますが、是非ご参加ください。
<最後に>
今回のテーマは「Jump!」です。
- JSPENをさらに変革して新しいページへJump!
- 研究活動を極めて高い学術レベルへJump!
- 教育システムを推し進めて個々の会員のさらなる成長へJump!
- 技術と知識を磨いてプロの医療者として次のステップへJump!
- 日本を飛び出して世界へJump!
- コロナで閉塞した気分から開放的な気分へJump!
- エビデンスを超えて匠の世界へJump!
など、私を含めたJSPENの皆様方の、もう我慢できない、大声で叫びたい、走り出したい、今いるところから次の高みへ飛び出したいなど、はち切れるような高揚感を「Jump!」という一言に込めました。そして、ポスターは有名な建築デザイナーとなった中学校時代の同級生「日高修」さんとともに自作しました。「Jump!」という気持ちを詰め込んで…
「Jump!」したいことは様々にあると思います。学術集会では会員の皆様の「Jump!」したいこととその高揚感を思いっきり表現していただきたいと思います。
会場となる神戸は私のホームタウンであります。神戸をよく知る教室員一同、神戸大学や関連施設の仲間、そしてプログラム委員の皆様とともに、実りある学術集会と神戸らしいおもてなしができるようしっかり準備を進めてまいります。新緑の色増す季節を迎える神戸の地で多くの皆様のご参加をお待ちしております。