JRC2026
第131回日本医学物理学会学術大会
第131回日本医学物理学会学術大会
第131回日本医学物理学会学術大会

第131回日本医学物理学会学術大会
大会長 納冨 昭弘
President of 131st JSMP
Akihiro Nohtomi
これからの放射線治療の技術革新と E = mc²
第131回日本医学物理学会学術大会・大会長を拝命しました、納冨昭弘です。第131回日本医学物理学会学術大会は、2026年4月16日(木)~19日(日)の4日間、パシフィコ横浜にて、第85回日本医学放射線学会(JRS)総会、第82回日本放射線技術学会(JSRT)総会学術大会、および日本画像医療システム工業会(JIRA)の国際医用画像総合展(ITEM)との合同で、日本ラジオロジー協会(JRC)主催でJRC2026として開催されます。第131回日本医学物理学会学術大会では、「Nuclear Energy for Radiology」をテーマに掲げております。この機会に、これからの放射線治療の技術革新と、その根底にある物理学の基本原理「E = mc²」について、少し考えてみたいと思います。
それは、それほど遠い昔のことではありません。遠藤真広先生の回顧によりますと、日本中がバブル景気に沸いていた頃、放射線治療の現場は次のような状況だったそうです。「一時代前(1990年頃まで)の放射線治療では、治癒が期待できたのは、子宮腔内に密封線源を挿入して照射する子宮頸がんや、早期の喉頭がんなど頭頸部の一部に限られていた。多くのがんは進行がんであり、治癒は難しく、一度良くなっても再発することが多かった。」1) このような背景から、当時の放射線治療は「他に手段がないときの最終手段」という印象をもたれていたのも無理はありません。
あれから30年以上が経ち、現在の状況は大きく変わりました。今では放射線治療は、外科治療、薬剤治療と並ぶ「がん治療の三本柱」として確固たる地位を築いています。その発展の礎となったのが、1970年代に始まったCT、PET、MRIなどのモダリティーの開発と進歩でした。診断画像技術が発展したことで、がん病巣の三次元的な広がりを詳細に把握できるようになり、高精度放射線治療が実現しました。
高精度放射線治療とは、がん病巣のみに放射線量を集中させ、周囲の正常組織への影響を最小限に抑える技術です。そのために、ブラッグピークを利用した粒子線治療や、光子線による強度変調放射線治療(IMRT)、定位放射線治療(SRT)などの手法が確立されました。こうして、放射線治療は外科治療に匹敵する、あるいはそれを上回る成果を上げるようになり、「線量の領域選択性」はほぼ完成の域に達したといえるでしょう。
そして新しい世紀を迎えてから、早くも四半世紀が過ぎようとしています。
これまでの放射線治療の成果が「線量の領域選択性」の追求によって得られたものであるならば、次に訪れる技術革新(パラダイムシフト)は何でしょうか。第131回大会の準備を進める中で、私はこの問いに思いを巡らせました。その答えのひとつとして浮かび上がってきたのが、日本でも近年注目されているホウ素中性子捕捉療法(BNCT)と標的アイソトープ治療(TRT)の2つの放射線治療です。
これらの治療法の共通点は、ドラッグデリバリーシステムによる「線量の細胞選択性」と、「核エネルギーによる効率的ながん細胞殺傷効果」の組み合わせにあります。すなわち、現象をよりミクロな視点でとらえる新しい時代が到来しつつあるのです。
BNCTは、がん細胞に選択的に取り込まれるホウ素化合物を体内に投与し、外部から中性子を照射することで核反応を起こし、発生した高エネルギーのアルファ粒子やリチウム粒子でがん細胞を破壊する治療法です。
一方、TRTは、がん細胞に集まる薬剤を放射性同位元素で標識し、その壊変で放出される放射線によりがん細胞を死滅させる治療法であり、現在は「核医学治療」とも呼ばれています(放射性壊変では核反応が自発的に持続していると見なせます)。
BNCTは日本でも1960年代から原子炉を用いた臨床研究が進められ、特に難治性の膠芽腫(グリオブラストーマ)治療で成果をあげてきました。加速器中性子源を用いたシステムの実用化を契機に、普及が加速しています。TRTについても、近年はアルファ線放出核種を用いた薬剤開発が活発で、大きな期待が寄せられています。
これらの治療に用いられる放射線は、核反応や放射性壊変に伴う質量欠損から生じる、アインシュタインの有名なエネルギー質量等価式 E = mc²に基づく 核エネルギーを源としています。その典型的なエネルギーは数MeV程度で、薬剤を取り込んだがん細胞に集中してエネルギーを与えることで、がん細胞のみを効率的に死滅させます。まさに「線量の細胞選択性」がここに実現しているのです。
第131回学術大会(JSMP131)では、加速器BNCTの日本での保険適用から5年を迎えるにあたり、「BNCTの到達点」と題したシンポジウムを企画しました。これまでの臨床経験の総括と今後の展望を議論する場といたします。さらに、「核医学治療の最前線」と題して、国内外の専門家をお招きし、現状の課題や研究の方向性を幅広く議論します。基調講演として、OECD/NEA のWilliam D. Magwood IV 事務局長からビデオメッセージを寄せて頂く予定となっております。
また、短飛程の高エネルギー粒子では放射線飛跡の線質がどんどん変化するため、同一線量あたりの生物学的効果比(RBE)の正確な評価が求められます。これには放射線生物学との連携が不可欠であり、モデルの再検証や生物学的修飾因子を考慮した線量評価についても議論する予定です。「今、RBEについて考える」という特別セッションを通じて、線量評価の新しいアプローチを模索していきます。
現在、放射線治療の開発は確実に転換点を迎えています。そして、その中心には「E = mc²」に象徴される核エネルギーの理解と応用があるように思います。これから四半世紀後、2050年の放射線治療はどのように進化しているでしょうか。本大会が、その未来を描き、夢を語り合う出発点となれば幸いです。皆様の参加をお待ち申し上げております。
【引用文献】
(1) 遠藤真広著「がんの放射線治療と物理学の役割」医療科学社(2024)