シンポジウム
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文責事務局
シンポジウム
開会挨拶

武内和彦

IATSS会長
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)理事長
東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)機構長・特任教授

国際交通安全学会(IATSS)は1974年の設立以来、交通及びその安全に関する調査研究等を通じて、望ましい交通社会の実現を目指して様々な活動を行ってきた。

 

この間、世界の交通をめぐる状況は急激な変化を迎え、年間交通事故死亡者数は120万人を超えて今後さらに増加傾向にある。この喫緊の課題に対応するとともに、気候変動、地球温暖化、持続的な都市の発展、社会格差の是正など、多岐にわたる分野で対応することが求められている。このような背景を踏まえ、40周年を迎えた2014年に、長期的な4つの方針を掲げ、取り組むこととした。

 

第一は、Global Safety。これまで以上に、交通とその安全について、地球的規模で取り組むということである。第二は、「交通文化」という観点の重視。地域や国の発展形態や社会的な特徴には違いがあり、社会・文化的な背景を踏まえ、それぞれの「交通文化」に応じた有効な対策を目指す。第三には、学術の分野だけではなく、広く交通に携わる行政、実務の専門家、利用者など関係する方々と共に活動すること、「超学際性Transdisciplinary」を推進する。第四は、日本のみならず世界の人々とともに、異なる価値観や文化を超えて、継続的に、共同で討議し、課題を共有し、望ましい交通社会を共に創る「共創」の場を作り上げる。

 

各国・地域の交通政策の背景、政策目標の優先順位の考え方をひろく「交通文化」ととらえ、これら多様な価値観の中で政策と有効な方策について活発な討議を行うことが重要と考える。本日のシンポジウムにおいても、このような議論が展開されることを期待している。

 

趣旨説明

北村友人

IATSS会員 / 国際フォーラム実行委員会委員長
東京大学大学院准教授

超学際で議論する場、その取り組みを促進するきっかけを作る場として、このGIFTSという国際シンポジウムを2015年からこれまでに4回開催した。

 

過去4年間のシンポジウムでは、都市の在り方、技術革新、人々の生活と交通の関係、公共空間としての交通社会の在り方など、世界各国の専門家の方々、国際機関の実務者の方々に参加頂き、幅広い視点から知見を共有頂き、多くの議論を重ねてきた。

 

長年に渡り積み上げてきた研究、社会実装、社会貢献といった知見および経験を、国内は元よりさらに積極的に海外に発信し、この豊かなリソースを多くの方々に活用頂くことが、設立50周年に向けたIATSSの目標である。

 

世界各地、とりわけ途上国、中進国の多くでは、活発な経済活動が営まれるなかで、交通分野における課題もますます顕在化している。GIFTSを活用して、IATSSらしい国際貢献をしていくためには、こうした問題を考えていくことが不可欠である。

 

各国の「交通文化」を理解し、国際貢献を果たしていくうえで、まずは日本が位置するアジアについて理解することが重要ではないかと考え、今回のGIFTSのテーマを「社会経済開発と交通安全―アジアの国際社会における『交通文化』の意味」とした。

 

基調講演では、アジア開発銀行(ADB)チーフエコノミストである澤田康幸先生から、アジア各地で進む都市化の状況を踏まえ、それらの都市の運営、産業振興、労働市場の活性化など、様々な課題があるなかで交通および交通安全の問題を考える議論の基盤を提供頂く。

 

後半の討議においては、国際協力機構(JICA)の小泉幸弘氏、AIP財団のミリアム・シディック氏、世界資源研究所(WRI)のアレハンドロ・シュヴェートヘルム氏に参加頂く。

 

今日、経済成長めざましいアジアのさらなる安定した発展のためには、アジア諸国地域の多様性を重視しつつ、それに応じた有効な施策を正しい優先順位で行うことが求められる。本日はそのための貴重なお話が伺えると思う。

 

基調講演 : アジアの都市の成長と包摂に向けて
澤田康幸

アジア開発銀行 チーフエコノミスト

発表資料ダウンロード

広い視点からアジア全体の都市化、交通安全を含めた包摂的課題について、5つのトピックから報告する。

 

① 都市化の様相
発展途上のアジア地域は急速に都市化している。1970年には4億人であった都市人口が現在は18億人ほどである。これは全人口の半分ほどが都市に来ていることを示している。また、ラテンアメリカ、北米、ヨーロッパとくらべてもアジアの都市化のスピードは非常に速い。

 

都市化と経済成長には強い相関関係がある。恐らく、これには双方向のコーザリティがある。国全体が成長し豊かになるとサービス業や製造業製品への需要が高まる。これが都市化を推し進める。また農業から工業への流出も同様である。一方、都市に人が集まると集積の利益、全体としての生産性が上がり、都市化が進むと国全体の所得を押し上げることになる。

 

都市は行政区を超えて拡張する。よって、行政区分ごとに集められるデータには、少々不正確な部分がある。したがって、ADBでは、衛星から得られるナイトライトと地上の人口データを合わせて、都市のありままの姿(自然都市)をデータに語らせた。

 

比較的小さな都市が大きく拡大して、連結して都市クラスターを形成するのがアジアの特徴といえる。人口1000万人を超える巨大都市クラスターがアジアには28存在する。

 

② アジアの都市における集積の経済
集積の経済とは、経済活動が地域的、地理的、空間的に集中することで大きな生産性の便益があるということである。この理論は、「学び」「マッチング」「共有」の3つで説明できる。まず、集積している地域では、知識、アイディアが人々、企業を超えて波及する。つぎに、労働者、中間業者、顧客などの投入市場と産出市場が一致する。そして、インフラの共有、幅広い専門知識の活用が容易になる。

 

アジアの都市には集積の利益が存在する。特に大都市では同じようなバックグラウンドを持つ労働者の賃金がシステマティックに高くなる。また大都市に位置する企業ほど多くのイノベーション (Product, Process, R&D) に取り組んでいる。この集積の利益には、大都市に多く存在する大学の果たす役割も大きい。さらに、大都市であればあるほど、労働市場におけるジェンダー格差が小さいという傾向もアジア全体ではみられる。

 

③ 労働市場としての都市
集積による利益は自動的には生じない。交通システム、土地利用、土地利用計画、住宅の安定共有(アベイラビリティ)、広いビジネス環境の整備が大きく関与する。

 

まず、都市の活性化には機能する労働市場が不可欠である。その条件として、都市圏内に安価に迅速に移動できる手段があり、比較的安価に不動産が入手できることが必要になってくる。このことは中国の重慶とナイジェリアのラゴスで顕著である。機動力の高い重慶には多くのグローバルカンパニーが集まり、失業率も4%以下であるのに対し、ラゴスではローカルカンパニーが中心であり、失業率も30%弱と高い。

 

労働者にとって大きな制約となる混雑は大都市において深刻である。アジアの278都市の交通混雑状況をGoogle Mapの交通情報をもって測定した。マニラ、ダッカ、バンガロールは交通渋滞が激しく、我々の直感とさほど遠くない結果となった。

 

この交通渋滞の背景には、アジアでの乗用車数の激増がある。2005年から2015年に乗用車の占める割合が大きく増加したのは中国である。他の途上国にくらべてアジアの発展途上国では2倍のスピードで増えている。

交通混雑の課題は、公的交通手段と住居へのアクセスのしやすさにも関係している。都市の拡張が、有効な土地利用計画、都市利用計画に従っていないために、面積に対して道路が非常に少なく、また宅地も幹線道路から遠く離れることになる。このことがアジアの発展途上国の労働者の収入に占める通勤交通費の割合を上げ、住宅の高騰を招いている。

 

住宅の値段を抑えるには、住宅の供給量を増やし、需要を減らす必要がある。例えば、公共交通を都市の中心部から郊外へ整備することによって、都市の中心部に住宅の需要が集中しないように分散する。また、住宅ローンを組みやすくする、担保の制度を見直す、貧困層向けの賃貸住宅を拡充するなどの施策も重要である。

 

④ 都市システムのマネージメント
個々の都市を成長させるだけでなく、都市と都市、小規模、中規模、大規模の都市、遠隔地を結ぶ、全体として多様な都市の活気をバランスよく支援する、都市の連結性を高めることが重要である。

 

小都市にはビジネスの制約が存在する。都市のアクセス、ビジネスの認可のスピード、インフラの問題が大都市にくらべ小規模、中規模の都市には多く存在する。

 

都市の活力を実現するためには、複数の公共交通システムがシームレスにつながることが重要である。また、手頃な値段で住宅サービスが受けられることも大切である。この実現には、土地利用計画と規制が適切に行われていることが必要である。さらに、個々の都市を密に連結し、全体として発展する都市システムを構築することも不可欠である。

 

⑤ アジアにおける交通安全とADBの役割
アジアの交通安全は非常に悪化している。交通事故の犠牲者の多くが、二輪車、三輪車、歩行者といった交通面での弱者である。また、低所得国の都市では一般に交通事故死亡者数を減らすことができていない。さらに、データ自体の信用度が低く、各国同じ条件で交通事故死亡者数のデータを取れていないため、実態が成果には把握されていないという問題もある。また、交通事故死亡者数の増加は、生産年齢人口が悪影響を受けることから、GDPにも大きな損失を及ぼす。

 

これらの解決には、国を超えてデータを収集し、解析し、政策につなげる必要がある。ADBは、世界銀行、FIA、International Transportation Forum等、他の国際機関と連携し、アジア太平洋地域の交通安全を議論するプラットフォームとして、交通安全監視機構(RSO)を今年の3月に立ち上げて支援している。同様の監視機構がラテンアメリカ、アフリカでも設立されている。

 

また、ADBのローンが4分の1、残り4分の3の予算をインド政府が提供する、州レベルの交通安全インセンティブプログラムを行っている。死亡率を減少させる制度、監視システムを構築するための具体的な目標を設定し、達成度合いに応じて予算を配分していく。

 

まとめ

発展途上アジアでは急速な都市化が進行し、都市クラスターが形成されている。
アジアの諸都市は「集積の利益」を享受してきたものの、自動的に生じる利益ではない。
社会的包摂性のある成長を達成するために、アジアの都市は交通インフラ・住居・都市計画における既存の課題を克服する必要がある。
交通安全を達成することは社会的包摂性のある成長のために不可欠。アジア開発銀行は革新的なプログラムなどを通じてアジア太平洋地域の交通安全に寄与する。

 

パネルディスカッション
司会:   中村彰宏  
パネリスト:   澤田康幸
 
    小泉幸弘 発表資料ダウンロード
    ミリアム・シディク 発表資料ダウンロード
    アレハンドロ・シュヴェートヘルム 発表資料ダウンロード

 

国際交通安全学会(IATSS)会員であり、今回の司会を務める、横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科の中村彰宏教授は、出席者全員に対して有益な議論を期待していると述べ、各パネリストを紹介した。そして「社会・経済開発と交通安全―アジアの国際協力における『交通文化』の意味」という今回のテーマに触れた。

 

中村氏は「これまでもGlobal Interactive Forum on Traffic and Safety(GIFTS)では、この交通文化をテーマとして扱ってきており、本シンポジウムのキーワードと言える。それにも関わらず、この言葉の意味が今一つ判然としない。なぜなら、交通文化とは、交通システムと交通安全との関係や、都市における経済発展や社会福祉の成長と関連して定義される非常に広義な言葉だからである。本セッションがこの言葉を理解する助けになればと思う。」と述べた。

 

国際協力機構(JICA)の社会基盤・平和構築部 運輸交通・情報通信グループ次長の小泉幸弘氏は、交通安全に関するJICAの取り組みについて紹介した。

 

JICAは、開発途上国における経済発展、農村開発、医療、都市問題、環境問題、防災等を目的とした政府開発援助(ODA)を実施する国の機関である。注目すべき例の一つとして、2019年3月のインドネシア・ジャカルタにおける交通インフラである都市高速鉄道システム(MRT)の開業が挙げられる。

 

JICAの交通安全プログラムは主に、有償資金協力や、無償資金協力による施設整備のほか、人材育成、法規・規則整備および交通安全対策を含む都市計画・都市交通マスタープランの策定等の技術協力によって実施される。

 

JICAはアジア、アフリカ等、世界中で数多くの協力プログラムを展開している。その中の1つとして、各国の行政官向けの交通安全研修や警察官を招へいして行われる交通管理コース等がある。また、ミャンマー、ベトナム、バングラデシュ等の大学生を日本に招待する教育プログラムがある。

 

JICAのマスタープランは、人口規模や都市計画に考慮しながら、交通安全と交通管理とを組み合わせて策定される。ベトナムやインドネシアが顕著だが急速に発展する都市では、バイクや自転車の数が非常に多く、それらの交通事故が多発している。このような交通事故を防ぎ、交通安全を構築するためには、公共交通機関を整備し、移動手段をプライベートからパブリックに移行させることが重要である。

 

このような意図に基づいてJICAでは、様々な支援を行っている。2025年までに、バングラデシュ、ベトナム、フィリピンなど10カ国・都市で都市鉄道(MRT)システムの開通を目指しているほか、タンザニアのダルエスサラームでは、フライオーバーを竣工し、交通渋滞の緩和や交通安全の改善に貢献している。さらにJICAは、ベトナム北部での信号機、歩道橋、二輪車用横断橋、ガードレールの建設に協力している。

 

JICAによる能力強化の取り組みとしては、ハノイの警察官への研修、交通安全委員会に対する広範にわたる教育、カンボジアのプノンペンにおける都市マスタープランの下での交通行動についての一般市民に対する教育等がある。このプノンペンの取り組みでは、学童たちの協力のもとキャンペーンを行ったが、この学童を巻き込んだ方法は大人に啓発が進むという意味で非常に効果的であった。

 

最後に小泉氏はアジアの多くの国でのモータリゼーションを物語る、ある国の一般的な例を挙げた。この国では2002年から2010年にかけて自動車の販売が加速して、GDP成長を上回り、一人当たりGDP1000ドルという重要な分岐点に達している。しかしそれと同時に、交通事故死者も増加し、懸念を引き起こした。急速なモータリゼーションを避けることができないため、交通手段と交通政策とを効果的に組み合わせていく必要が生じている。AI(人工知能)などのテクノロジーの活用は、交通の安全性を向上させる上で利点や機会を提供するものである、としてプレゼンテーションを終えた。

 

AIP財団CEOのミリアム・シディク氏は、非営利組織であるAIP財団の紹介をした。この財団は、アジアの中低所得国における傷害および死亡を防ぐ活動に取り組んでいる。財団ではこれまで20年にわたってこの取り組みを行ってきた。財団の活動の例としては、不注意運転、携帯電話の使用、インフラの改変による学校区域での低速運転などが挙げられる。そして、教育対策、ソーシャルメディアとマスメディアの行動の変化、政策立案と立法における政府の協力にも幅広く焦点を当てている。財団は、主に次世代の若者に注意を向けており、エビデンスに基づいた研究を使用して、介入の開発と実施を行い、交通安全の監視と評価のために第三者機関と協力している。

 

アジア太平洋地域では、40秒に1人が交通事故で亡くなっていると言われている。アジアでは、子ども、高齢者、貧困者など弱い立場にある人々が、交通事故死の59%を占めている。世界保健機関(WHO)が最近公表した報告書では、東南アジア地域では法的枠組みの整備の遅れが深刻であるとしている。

 

ベトナムでのAIP財団の取り組みは、主に自動二輪乗車時のヘルメット着用に焦点を当てている。ベトナム戦争後、国は大規模な発展を遂げ、また現在の経済変化に伴って、自動二輪は成長の象徴と見なされていた。しかしこのようにバイクが社会に浸透したことで、死亡者の数は10年未満の間に164%も増加、負傷者数は2倍近くも増えている。2007年以前のベトナム国内では、膨大な数の自動二輪があるのにもかかわらず、ヘルメット着用は義務付けられておらず、法律も限られた地域にしか適用されていなかった。

 

以前にベトナムで行われていたヘルメット着用キャンペーンは、愛国的な性質の強いポスターであり、証拠に基づいたものでもなかったため、対象者に訴えかけることができなかった。しかしAIP財団によるヘルメット使用における取り組みは、2007年の汎用性のあるヘルメット着用法規制定に貢献し、ヘルメット使用が90%も増加することになった。これは、アジア開発銀行(ADB)のグロス・アウトプット法を使うと、502,774人の頭部外傷が予防され、15,302人の命が救われ、10年間で35億米ドルが節約されたことになる。

 

しかし子どもたちについては、罰金が科せられなかったため、法的抜け穴になっていた。そしてある新聞では、ヘルメットを着用すると子どもの脊椎の発達が阻害されると主張する医師からの注目すべき報告がされた。その結果、子どものヘルメット使用率は、大人と比べてはるかに低いままであった。この問題に対して、証拠に基づいた調査が実施され、その後より包括的な法律が可決された。ここから学ぶべき教訓とは、最初から包括的な政策を採用する必要があるということである。

 

現在ベトナムで一般に使われているヘルメットは品質が良くない。そのため、生産現場の品質を工場させる対策を講じるほか、住民に対する教育を道路規制とともに実施することが望ましい。事故で負った頭部外傷の重症度と、ヘルメットの品質とを比較した包括的な調査研究は全く行われていないが、このような研究は、ベトナムで使用されるヘルメットの質を広く向上させることに役立つと思われる。

 

全体として、交通安全のための統合されたアジェンダに含まれる全ての部門との協力および調整が不可欠であるが、このことは、持続可能な開発目標を通じて実現されつつある。ただし沿道キャンペーンに関しては、より多くの投資が必要であり、政治家はリーダーシップと責任意識をさらに高める必要がある。Vision Zeroは、事故を原因とする全ての負傷と死亡は予防可能であるという考え方だが、これは、単に道路利用者を非難するのではなく、全ての利害関係者が負う共同責任であり、今後の進展において不可欠なものである。

 

世界資源研究所(WRI)のロス持続型都市センターの都市モビリティアソシエイトであるアレハンドロ・シュヴェートヘルム氏は、アジアの交通安全とWRIのアプローチの基本原則にかかわるものとして、交通安全についての説明を行った。

 

WRIは、影響を拡大するための研究、技術支援、能力開発を行うためグローバルに活動する非営利研究組織である。そして、セーフ・システム・アプローチは、Vision Zeroプログラムの基礎となる原則に基づくものである。このアプローチには、核となる要素、実施方法および実用的な要素がある。人的エラーは、道路利用者だけでなく、全ての利害関係者が関わる学際的なアプローチを必要とする重要なポイントである。土地活用計画、街路設計とエンジニアリングや、教育と能力育成に携わる利害関係者は、全員が交通安全の向上に不可欠である。

 

「回避、転換および改善」のモデルは、土地活用の最適化と、交通渋滞やアクセシビリティの欠如への対処を重視している。転換の要素には、利用者が、自動車から、より安全で効率的な輸送モードへと転換できるようにするさまざまな輸送システムが含まれる。一方、改善の要素は、汚染に対処するための輸送の電化に焦点を当てている。

 

WRIが実施したボゴタ市でのデータ分析は、過去3年間の衝突事故データとともに、衝突事故の頻発地点を検出するための効果的なアプローチについて強調するものである。これに速度データ(入手可能な場合)を重ね合わせることで、分析をさらに包括的なものにしている。これらの取り組みにより、速度の低下や道路設計の改善を行うのに理想的な場所を特定するための10層からなるアプローチが特定された。現在WRIはタイ道路財団と協力して、バンコクでデータ収集を行っている。予備段階ではあるものの、バンコクにおける交通安全を改善する絶好の機会を提供するものである。

 

交差点設計に対する介入におけるWRIの取り組みは、ムンバイでは際立った事例であり、交通安全の成果の向上へとつながっている。このアプローチは、暫定的な介入を、恒久的な介入にする前に試験および評価を行い、交差点をより安全で効率的にするためのものである。このアプローチは衝突事故減少に対して効果があったことから、ムンバイのほかの交差点へも拡大して実施されている。

 

地域の交通文化というものは、地域ごとに問題が異なることから、検討を要する重要な側面だと言える。弱い立場にある利用者は、安全ではない交通の影響を等しく受けることになるが、分布については、交通モードのシェアによって異なり、自動二輪が多い国と、自転車や自動車が多い国とがある。

 

交通安全への効果的な介入には、速度の低下および事故頻発地点として特定された交差点の再設計などがある。経験的にはわかりにくいかもしれないが、制限速度を下げるのは、ラッシュアワー時の、すでに混雑している道路の交通の流れには影響を与えることはなく、事故が多発する夜間に、重大な衝突事故を減少させるのには効果的である。WRIのタクティカル・アーバニズムのアプローチは、地域と利害関係者の両方を関与させるものである。これにより試験運用が可能になり、その結果として、先に述べた都市での恒久的な採用に対する広範にわたっての承認を受けられるようになり、反復的かつ漸進的に改善をすることで変化がもたらされることになる。このアプローチの優れた面は、欠点に注意を向け、多くの一般市民の関与を生み出すとともに、個人やその他の利害関係者に対して責任意識を持たせることにある。これらの取り組みは、ラテンアメリカやアフリカの各都市や、バンコク、ホーチミン、ムンバイなどのアジアの都市で実施されている。

 

ディスカッション

司会を務める中村氏は、パネリストから質問や意見を求めながら、ディスカッションを進めた。

 

アジア開発銀行(ADB)のチーフエコノミストである澤田康幸氏は、パネリストの発表に対して感謝し、うなずける部分が数多くあると述べた。「急速な都市化、交通事故の増加に対応するには、都市マスタープランの設定が不可欠であり、中長期的にはより包括的な公共交通システムを構築することにより自家用車に対する依存度を低くする必要があると考えているがどうであろうか」と質問した。

 

続けて澤田氏は、「道路利用者への「ナッジ(行動変容へのソフトな働きかけ)」こそが、WRIによるGISおよび頻発地点の特定を通じた交通安全への働きかけ、危険の少ない行動への誘導、AIP財団がベトナムで行ったヘルメット着用のキャンペーンで示したメッセージ、学校に通う子どもが親にとって効果的な教育者となったプノンペンでのJICAのアプローチに共通している点ではないか」と述べた。

 

小泉氏は「急速な都市化とモータリゼーションはどの国でも避けられないことだ。しかし、適切なマスタープランを策定し、それに従って公共交通整備を行うことにより、自家用交通の利用を抑制することは可能である。但し、鉄道整備にはかなりの時間がかかるため、適切なタイミングで意思決定を行う必要がある。インドネシアは都市鉄道整備の意思決定に時間を要してしまった。」と発言した。

 

シディク氏は「このキャンペーンでは、ヘルメットを使用するのはなぜかという理由を徹底的に調査し、それらの理由が生命を脅かすことを説明し、利用者に衝撃を与え、ヘルメット着用の習慣を改めるきっかけをつくった。法律が可決された後、有名人、歌手、ミュージシャンを使用した広告キャンペーンを行い、さらにヘルメットの使用が、子どもの脊椎の発達に悪影響を及ぼすといった新聞報道の主張に対して、データを示して反論した。」と説明した。

 

シュヴェートヘルム氏は「現在、アジア地域では、乗用車の保有率が上昇している。よって、バンコクで実施されている対策のように、ほかの交通手段をより魅力的にするための必要に迫られている。さらに衝突事故と頻発地点とが集まっている場所を明らかにするジオコードされた衝突事故データに、ヘルメット着用、道路利用者の種類、性別、年齢、一日の時間など、複数の変数を入力し、高品質のデータを作成する。マスタープランは、教育、メディア広告、法施行、都市計画に基づいて学際的なアプローチを取ることで、都市をより安全にすることを可能にする。」と述べた。

 

中村氏は、発表に見られた違いから、交通は明らかに文化的なものであるとしながら、共通点があることにも触れ、それが機会を創出する大きな源になると述べた。そしてゾーニングの違いや、政治構造の違いについてさらに詳しく説明するように求めた。さらに、ベトナムで使用された衝撃的なイメージ、行動経済学に基づいた「気付かせる」施策、ラテンアメリカにおける交通への介入、交通警察の効果的な教育など、プロジェクトごとの違いと共通性を探ることの必要性を語り、「これらは、アジア地域のほかの国々にとっても、学ぶ価値がある」と各プレゼンテーションに対する考えを述べた。

 

澤田氏は、重慶とラゴスとの違いは、マスタープランや土地利用の制限のほか、両都市の意思決定における権限やインセンティブの違いよるものだと答えた。「中国では、地方政府に土地利用決定の権限があり、しかも優れた計画によって都市が成長することが行政のパフォーマンス指標となっているなど優れた政策環境があったのである。」と説明した。

 

小泉氏は「1990年以降にマスタープランを策定した50都市で、市民の交通利用に関する調査を行ってきた。この調査によれば経済成長が進むにつれて、道路利用者による平均移動距離が長くなる。しかし、カンボジアは、発展途上国であるにも関わらずこの移動距離が長かった。その理由は長い昼休みを利用して、皆が家に昼食を取りに帰っていたのである。これは交通安全を考えるうえで考慮すべき相違点の一例である。」と紹介した。

 

シディク氏は「カンボジアではベトナムと同じアプローチが功を奏さなかったため、ヘルメットの着用は『思いやり』であるとのアプローチをとった。法規制が為され、警察への教育も進み、状況はかなり改善されている。」と説明した。

 

シュヴェートヘルム氏は「例えば、歩道の面積を拡張するといったタクティカル・アーバニズムによる介入の効き目については、東南アジアとラテンアメリカで大きく異なる。東南アジアでは先送りにされるが、ラテンアメリカではすぐに採用される。これは発展段階が異なるからである。いまだ急速の発展を遂げていないラテンアメリカの都市に、安全で利用しやすい交通システムを速やかに構築することが、都市の成長に大きく寄与する」と付け加えた。

 

中村氏は「マスタープランの策定や施策の実施に際して、JICA側がプランを提案するのか。それとも現地の人々との話し合い、調査結果等によって決めていくのだろうか。」と質問した。

 

小泉氏は「JICAのマスタープランを作るアプローチは、このプロセスを通じて、行政当局、関係機関の能力強化を図っていくことも目的としている。よって、日本側が一方的に押し付けるのではなく、一緒に議論して実用的かつ機能的なシステムを共同で開発することが不可欠である。」と回答した。

 

質疑応答

会場の参加者4名がこれまでのプレゼンテーション、ディスカッションについて質問を行った。

 

質問者1:「公共交通をいち早く整備することが都市交通問題を解決する一番の近道であるのに、多くの国においてこの流れは非常に遅い。特に開発途上国において鉄軌道系の整備が遅れている。これは何故であろうか。」

 

質問者2:「バイクや自動車といった私的交通に頼らざるを得ない公共交通の未発達な都市における、交通安全対策のポイントを伺いたい。」

 

質問者3:「日本では交通事故死亡者数が減少し、車先進国の仲間入りを果たしたが、歩行者、自転車等の交通弱者の死亡者率が非常に高い。これは同じ車先進国である欧米とは全く違う。このような特徴を踏まえ、アジアの交通安全対策を考える必要がある。」

 

質問者4:「ムンバイのパーマネントインターセクションに横断歩道が出てきたが、これは上手く機能しているのだろうか」と質問した。

 

シュヴェートヘルム氏は「車線数を削減し、交差点の曲がり角での歩道を延長し、障壁を設けたことで、横断歩道が交通事故死亡者数を減らすことに大きく貢献している。」と回答した。

 

中村氏は、公共交通機関の発展がなかなか進まないこと、それを踏まえどのような対策を行っていくべきかと先の質問を今一度強調した。

 

澤田氏は、フィリピンを例にとって説明を始めた。「戦前、フィリピンにはワシントンDCを手本にした非常に美しい都市のマスタープランがあった。しかし、戦後、政府のプライオリティの変更により、この計画に沿った都市づくりは実現しなかった。このような状況のなかでフィリピン政府は二つの方法を両輪で進めている。一つ目は、非常に不便であったマニラ空港へのアクセスを解消するためにスカイウェイを建設したように、交通のボトルネックとなっているホットスポットを割り出し、そこへ集中的に交通インフラを投下する方法である。二つ目は、ADBも支援している、クラーク空港からカランバまでの鉄道の敷設計画、JICAのメトロ支援等のように積極的なインフラストラクチャー投資を通じてトランジット・オリエンテッド・システムへの移行をすすめることである。」と説明した。

 

中村氏は「交通文化の文化という言葉には差異という意味が含まれている。交通安全の施策を考えるときには、この差異に着目する必要がある。本日のパネルディスカッションを聞いて、調査や協力により、その差異を捉え、それにあわせていくことが可能であり、そのことにIATTSの調査や研究が貢献できるとの感想を持った。」とディスカッションをまとめた。

 

閉会挨拶

鎌田聡

IATSS専務理事

今回が5回目となるGIFTSでは、様々なテーマのもとに、それぞれの違いを踏まえ、広い視座に立ち、現実的な方向を向きながら、議論を行ってきた。その通底にあるのは「交通文化」というキーワードである。交通の分野はグローバルであると同時に非常にローカルである。だからこそ、この「交通文化」を理解することが重要である。本日のフォーラムは、交通文化を理解し、アジアとして、日本として、IATSSとして、交通安全に対して何が出来るかを考えるきっかけになったと思う。

 

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文責事務局
セミナー&ワークショップ
趣旨説明

北村友人

IATSS会員 / 国際フォーラム実行委員会委員長
東京大学大学院准教授

GIFTSは今回で5回目を迎えた。先週の金曜日にシンポジウムを開催したが、このシンポジウムでは1回目より「交通文化」をキーワードに議論を積み重ねてきた。安心安全な交通社会を構築していくうえで、それぞれの国や地域の異なる文化的特性を踏まえ、さらに世界的視野を踏まえ、共通の交通の問題、あるいは特有の交通の問題に対して、いかにして我々の知見を提供していくべきかを話し合った。

 

本日のセミナー、ワークショップも大筋においてはこのようテーマをもとに話しあうが、今回は2つの変化がある。1つ目は、日本国内の実情と課題をもう一度見直すこと。日本の交通政策の背景、骨子、現状、課題について目を向ける。2つ目は、これまで非公開で行ってきたワークショップを公開形式に変更したことである。より活発な議論が出来ればと思っている。

 

セミナー「日本の交通安全施策と意識」

日本の交通安全施策について

「我が国の交通安全対策の流れと今後の課題」
近藤共子

内閣府 政策統括官(共生社会政策担当)付 交通安全対策担当 参事官
発表資料ダウンロード

平成の30年間の交通事故の推移と、関係省庁連携による交通安全対策について概説した上で、今後に向けた課題にふれる。

① 交通事故の推移―平成の30年を中心に
令和元年版交通安全白書の特集では、平成の30年間の交通事故の動向と背景を、データに基づき整理した。今日はまず、そのポイントをいくつか紹介したい。
2018年の交通事故死者数は3,532人と、過去最多の昭和45年の約5分の1、平成の30年に限っても3分の1以下となり、平成の特に後半は,交通事故が大きく減少した時代ということができる。

 

平成に着目する前に、第一次交通戦争について振り返ると、昭和26年から20年程の間に、自動車保有台数が大きく増加し、「自動車乗車中」の事故、正面衝突などが増加し、また、信号機等の整備が十分とはいえず、道路横断中の歩行者の死亡事故も増加した。1970年には死者数は16,765人に上り、交通事故が社会問題となったことから、同年交通安全対策基本法が制定され、翌年第1次交通安全基本計画が作成された。
国を挙げての交通安全対策の結果、交通事故死者数は、1979年には8,466人まで減少したものの、昭和の終わりから次第に増加し、1992(平成4)年に11,452人となり、第2次交通戦争と言われた。白書ではこの頃以降に着目した。「自動車乗車中」の死者数が、特に80年代後半に急増した。背景として、第2次ベビーブーム世代が免許取得年齢に達し,運転技能が十分ではない若者の運転免許保有者が増加したことなどがあげられる。死者数は、1992年を境に再び減少に向かい,1996年に1万人を下回った。
平成の間について、「状態別」に交通事故死者数の推移をみると、30年前、最も多かった「自動車乗車中」は、1993年をピークに10年で4割減少し、2010年代には「歩行者」がこれを上まわっている。背景には、シートベルト装着率の向上、エアバックの普及、ABSが標準装備になったことなどがあげられる。また、年齢層に着目して死者数の推移をみると、65歳以上の高齢者の割合は、平成の初期の2割程から、2010年に初めて5割を超えた。

 

続いて、「人」「道路」「車両」の側面をみると、まず「人」の側面については、平成の時代の大きな特徴として、女性ドライバーの増加があげられ、また、年齢層別にみると、この30年間で、16歳から19歳までの運転免許保有者割合は約3分の1となる一方、70歳以上は10倍以上となった。高齢運転者の問題は、昭和の終わり頃から認識されてきていたが、今日、高齢者比率は約28%に上り、問題の質としても異なってきている。
この30年間でライフスタイルも変化した。郊外型ショッピングセンターなどが増加し、車で郊外に買物に出かけるようなにライフスタイルが広がった。また、昼と夜の死亡事故件数の推移をみると、昭和の終わりから平成の中頃まで、夜間の方が多く、夜間営業の飲食店や商店の増加なども背景に、夜間外出の機会が増えたことが窺われる。

 

次に、「車両」に着目すると、自動車保有台数は、昭和40年代には乗用車中心に急増し、昭和の終わりから平成を通じて、乗用車が(トラックや二輪と比べて)、道路を走る車の圧倒的な割合を占めるようになった。第1当事者の車両別に死亡事故件数の推移をみても、「自動車」については、件数では約3分の1となったが、全体に占める割合は常に7割以上となっている。道路インフラについても、道路延長は平成を通じて増加し、大規模インフラの整備も進み、昭和に着工した大規模プロジェクトが次々と完成した。
平成の30年間、「人」「車」「道路」全ての側面で、大きな変化がみられた中、交通事故は着実に減ってきたことがわかる。

② 関係省庁連携による交通安全の取組
次に、交通安全に関わるガヴァナンスの観点について、交通安全に関係する省庁は多岐にわたり、そのために交通安全対策基本法が制定され、関係省庁が協力して取り組んできた。また、行政だけに止まらず、民間、市民セクターなどが重要であり、春と秋の全国交通安全運動は、多数の協賛団体の協力のもとに行われている。一方、この運動について、全体で約7割が「知っている」と回答しているが、若い世代でその割合がやや小さい。どのように普及していくべきかを一緒に考えていただきたい。

 

総合的に交通安全に取り組んでいくため、10次にわたり交通安全基本計画が作成され、これに基づき、陸、海、空各分野の交通安全対策を推進してきた。多くの省庁が目標を共有し、コミュニケーションを重ね、連携して進めていく上で、「計画」は重要である。
平成の計画をみると、昭和末から平成最初の計画、第4次計画(1986-1990年)は、自動車依存度が高まることを予想し、「くるま社会」の量的拡大、質的変化がさらに進むことに十分対応した総合的な対策を従来にも増して積極的に推進しなければ、事故の増勢に歯止めをかけることはできない。」という強い認識を示しているほか、高齢者の事故の増加を掲げ、「高齢運転者」という言葉を用いている。第5次計画(1991-1995年)は、生活用式の夜型化や、夜間事故対策にも着目するとともに、この頃導入されたAT車限定免許制度、救急救命士などについても記述している。第6次計画(1996-2000年)は、交通安全教育について、身体障害者、外国人について特記している。平成の後期、我が国が人口減少社会に入り、初めて作成された第8次計画(2006-2010年)には、現行計画まで引き継がれてきている「人優先」の交通安全思想が明記されている。

 

現行の第10次計画(2016-2020年)は、「交通事故による被害を減らすために重点的に対応すべき対象」として、高齢者及び子供の安全確保、歩行者及び自転車の安全確保、そして、生活道路における安全確保を、また、「交通事故が起きにくい環境をつくるために重視すべき事項」として、「先端技術の活用推進」、「交通実態等を踏まえたきめ細かな対策の推進」、そして、「地域ぐるみの交通安全対策の推進」を掲げ、施策横断的に、重視していく方向性を示している。

③ 最近の取組、今後に向けた課題
近年、高齢運転者による交通事故が懸案となっていた中、子供が犠牲となる事故、高齢運転者による事故等が相次いだことを受けて、令和元年5月「昨今の事故情勢を踏まえた交通安全対策に関する関係閣僚会議」が開催され、6月に「緊急対策」が取りまとめられた。高齢者も交通弱者も自立できる社会を目指していくことが不可欠であり、社会全体で、その答えを考えていく必要がある。技術の進展にも一層期待したい。

 

また、外国人による交通事故も少しずつではあるが増えている。オリンピック・パラリンピックも機会に、交通参加者の多様化にも留意し、取り組んでいかなければならない。
6月の閣僚会議では、総理から「高齢化への進展への適切な対処とともに、子育てを応援する社会の実現が強く要請されている中、時代のニーズに応える交通安全の取組が、今、一層求められている」ということを踏まえた指示があった。社会が変わっていく中での交通安全について、今日のシンポジウムのような機会に考えさせていただきたい。

 

「交通死亡事故等の特徴と警察の取組」
平松伸二

警察庁 交通局交通企画課 交通安全企画官
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交通事故死者数の10年間の推移を全年齢層と65歳以上の高齢者で見る。両者ともに減少しているが、全体に比べて高齢者の減り幅が鈍い。人口10万人あたりの死者数では、全年齢層に対して高齢者が2倍と高くなっている。国別年齢層別30日以内死者数の構成率比較では、日本では高齢者が56.6%と過半数を占めるが、これは主な欧米諸国よりもかなり高い割合である。原付以上第1当事者の年齢層別の免許人口10万人当たり死亡事故件数では、75歳以上の運転手の事故がそれ以外の2.4倍になっている。

 

状態別死者数の推移では、10年間一貫して歩行中の死者が最も多い。国別状態別30日以内死者数の構成率比較では、日本では、歩行中と自転車乗用中を足すとこちらも半数を超え、各国に比べ高い数字になっている。5年間の合計で、状態別年齢層別交通事故死者構成率を見ると、歩行中死者における高齢者構成率は71.5%、全死者数の25.9%を占める。自転車乗用中死者における高齢者構成率は65.8%、全死者数の8.7%となっている。同じく状態別の死者数を幼児と小学生で見ると、両者ともに歩行中が半数を超える。

 

歩行中・自転車乗用中死者の法令違反状況では、全般的に違反ありの構成率が高くなっている。高齢者の歩行中死者では、違反ありのうち半数以上が横断違反である。携帯電話使用等に係る交通事故では、「ながらスマホ」の増加にともない、件数は右肩上がり、死亡事故率も約2.1倍になっている。

 

これらの状況を踏まえた警察の取組は、高齢者対策、幼児・児童対策、道路交通法の改正の3つである。

 

① 高齢者対策
高齢者歩行者・自転車利用者に対する広報啓発、交通安全教育。1) 交通ルールやマナーについての助言、指導。信号機の無い横断歩道でのルールについて啓発。2) シミュレーターによる交通安全教育。3) 夜間における視認効果等体験。薄暮時間帯の死亡事故が非常に多く、その対策として反射材の効果を試す体験である。4) 「安全運転サポート車」の普及推進。安全運転サポート車に限定した免許制度、高齢者の免許更新時の運転技術の確認等の検討を進めている。

 

② 幼児・児童対策
未就学児を中心とした子供の安全確保に関する施策。1) 関係機関と連携した危険個所の抽出。2) 子どもの通行が多い生活道路等における交通安全指導・取締り。また、幼児・児童に対する交通安全教育を行い、交通安全の意識の普及に努めている。

 

③ 道路交通法の改正
令和元年改正で措置をしたものは主に2つある。1) 携帯電話使用等に関する罰則の強化。これはかなり重くなっている。事故を起こした場合は、反則金の適用はなく罰則となり、行政処分については一発免停の可能性もある。12月1日からの施行である。2) 自動運転の実用化への対応。一定の使用条件下でのみ自動運転システムが運転制御を実施し、使用条件外や故障時には、運転操作を運転者に引き継ぐ必要があるものを対象としている。来春の施行である。そして、「あおり運転」への対応も制度設計も含めて検討していく必要があると思っている。

 

「道路交通安全対策の重点事項」
濱田禎

国土交通省 道路局 環境安全・防災課 道路交通安全対策室 室長
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道路は全国に約122万キロある。内訳は、自動車専用道路、幹線道路、生活道路である。自動車専用道路、幹線道路による自動車交通量の分担率は約76%であるが、日本は諸外国に比べて低い。この割合、なかでも高速自動車国道、直轄国道の分担率を増やし、生活道路から自動車を減らすことが、マクロな目で見た場合に、歩行者の事故削減に対して有効である。

 

今年前半にあった痛ましい事故をうけて、園児や子供の交通安全環境を改善することに注力している。今回は、全国の道路管理者に、局所対策はもちろんだが、面的対策、幹線道路対策にも取り組んで頂くよう呼びかけており、とりわけ面的対策を本格化して頂きたいとお願いしている。面的対策の代表は警察さんによるゾーン30で、現在全国に3,700箇所有る。しかしながら、ただ規制をかけただけのゾーンではなかなか速度が落ちないという現実がある。

 

このため、規制と併せて、速度を低下させたり、注意喚起を促したりする物理的デバイスの設置を促進することによって、面的対策の実効性を一層高めたい。物理的デバイスを設置するために鍵となるのは、地域における合意の形成である。ここが非常に苦労する部分である。物理的デバイス付きのエリア対策の好事例として必ずといっていいほど引き合いに出されるのが新潟市の例であるが、ここはIATSSと地方公共団体の職員の協力などがあったために合意が形成された。

 

しかし、全国の地方公共団体において、このような意見調整を行う能力のある職員を、交通安全のためだけに割いてもらえる状況にはない。故に、このような職員が、地域の未来のありように関連した議論、例えば、賑わい創出であるとか、ファシリティマネージメント、あるいは防犯、防災といった親和性のあるテーマについて合意形成を行っている場において、交通安全もあわせて議論をして頂き、エリア対策の合意形成を促進していくのが合理的ではないかと考えている。

 

生活道路のエリアの安全性向上といった身近な施策を展開していく際には、画一的な整備方針やメニューを中央から示すやり方ではなく、その地域の未来のありようについて志を持っている方に地域の実情にあった対策を考えて頂いたり、合意を形成して頂いたりすることを応援していく方が有効ではないかと考えている。

 

日本の交通安全意識-ESRA2をもとに

中村英樹

IATSS会員 / 名古屋大学大学院教授
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交通安全の問題は、人、道路、車が関与して生ずる。人の側面から日本人がどのような交通安全の意識を持っているかを報告する。

 

ESRA2調査の概要
ESRA2 (E-Survey Road users’ Attitudes)とは、世界各国の交通安全機関,研究機関,公共サービス機関,民間スポンサーの共同イニシアチブによる道路利用者意識の電子調査である。日本からはIATSSが関与している。

 

目的は、交通安全性能,特に交通安全文化および道路利用者の行動に関する比較可能なデータを収集および分析し、国内および国際レベルでの政策決定のための科学的証拠を提供するデータとして使用することである。

 

各国で実施し、取りまとめをベルギーのVIAS Instituteが行う。現在はヨーロッパを中心に32カ国が参加している。アジアからは韓国と日本とインドのみの参画である。IATSSの働きかけにより、2019年からベトナム、マレーシア、タイの参画が決定している。

 

このESRA2では、自己申告によるアンケート結果から交通行動の背景にある心理的な部分について調査を行う。オンラインで調査を行い、サンプル数は各国で1,000以上と定めている。年齢区分は、18歳以上を対象として、42の言語版があり、28の質問事項で構成され、回答所要時間は20分程である。各国の実施年月は2018年12月である。

 

主な質問テーマは以下の通りである。道路交通安全政策への意向、自己申告による交通行動、安全/非安全交通行動への受容度、安全/非安全交通行動に対する態度、交通安全・リスクに対する主観認識、交通事故経験、交通違反取締り。また、今回の特徴として、運転の自動化、各国で設定できるボーナス質問が入っている。

日本では昨年の12月14日から25日までオンライン調査を実施した。日本の人口の構成比になるべく近くなるようにサンプリングしている。サンプリング数は980である。このサンプリングを使用して集計を行った。

 

ESRA2では基本的な統計量についての国際比較を事務局が行う。通常であれば日本はアジア平均との比較になるが、アジアからの参画国が少ないこと、日本が先進国であることを考慮して、今回はEUの平均値と比較した結果を取りまとめている。

 

ESRA2での調査から見えてきた日本の特徴をまとめると以下のようになる。

 

日本とEU平均との比較
・公共交通を除き,各交通手段に対する安全意識が低め(リスクを認識している)
・アルコール摂取運転が実績・受容度ともに大幅に少ない
・運転中の携帯電話使用が実績・受容度ともに少ない
・ドライバーのシートベルト非着用運転は、実績・受容率ともに低い
・医薬品を除く薬を摂取しての運転が実績・受容度ともに多め
・強い眠気を覚えた運転が多め
・後席シートベルト非着用乗車は、実績・受容率ともに高い
・速度超過の実績はEUと同程度であるが、受容度が低い
・アルコール検査の経験回数が低い
・運転の自動化に関する関心が高い

 

自己申告による行動実績
・薬物・アルコール摂取運転は、男性、若年ドライバ-に多い
・速度超過は、男性、中年・壮年ドライバーに多い
・二輪車の速度超過が高め、特に若年・壮年ライダー
・歩行者のSMS利用、ヘッドホン装着が多く、特に若年で顕著

 

非安全交通行動の受容度
・自身 < 周囲
・女性 < 男性
・若年ほど高い
・速度超過への受容度が高い(市街地内 < 市街地外 < 高速道路)

 

態度
・速度超過習慣は、男性、若年と45~64歳代に多い傾向
・男性、若年者ほど、非交通安全行動への自信意識が高い
・男性の方が各種非安全交通行動の事故への寄与が高いと認識
・女性の方が交通安全行動への努力意識が高い傾向
・女性、高齢ほど法令順守意向が高い傾向

 

政策支持
・飲酒運転防止施策への支持率は80%程度と高く、年齢とともに上昇
・12歳未満の自転車利用者へのヘルメット着用義務に高い支持率
・自転車のイヤホン禁止も高い支持率

 

取締り可能性
・速度超過・シートベルトの可能性を高く感じている、男性、若年で高い

 

今後の課題としては、今回は単純集計、年齢、性別だけでみたが、この結果を他統計データと対比して分析していく余地があると思う。また、項目間でのクロス分析も必要である。さらに、このような調査の本来の目的である、態度・規範認識から意向、習慣、それが行動になり、場合によっては事故に結びつくという因果構造の分析を行っていくことも重要である。

 

質疑応答

〇2019年度以降はアジア地域の調査を加えるとのお話であったが、タイではまったくちがった統計結果が出てくるだろう。歩行者を保護する意識、運転者が優越性を感じる意識等についてである。日本の常識はタイの非常識、タイの常識は日本の非常識と言われるように、このことを意識して調査する必要がある。

 

中村会員:同じアジアでもまったく違う。まさにそのような観点からベトナム、マレーシア、タイに参加してもらった。その違いを明らかにするためにESRA2も動いている。このような調査も参考にして、IATSSでも東南アジアの交通問題を考えていければと思っている。

 

〇日本はEUと比較した方が良いとの話しがあったが、道路の使用状況をみると日本はどちらかというとアジアに近いと思う。日本の交通文化を認識するには、EUなど他文化との比較が必要なので、とても勉強になった。

 

中村会員:当初、日本の調査結果をアジア平均と比べる予定であった。しかし、アジア諸国の参加が少ないことと日本が経済水準で言えば先進国と言うこともあり、EU平均と比べた。

 

北村会員(司会):我々は3E(エンジニアリング、エンフォースメント、エデュケーション)で交通安全にアプローチすることが大切だと言ってきた。様々な社会の変化のなかで法整備がなされ、人々の意識が変わり、技術的な改善、3つのEがからみながら進んでいる。これが日本の交通文化であろう。交通文化は今を切り取るのではなく、連続性で見る必要があると感じた次第である。

 

ワークショップ「交通文化と交通安全対策の国際展開の方向性」

「アジアにおいてIATSSが実施してきた研究調査の紹介」
福田敦

IATSS会員 / 日本大学教授
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IATSS研究調査で、初めてアジアをターゲットした研究は、2002年に開始された「開発途上国におけるオートバイの都市交通手段としての役割と限界に関する研究」であった。この研究では、アジアで急増し、ややもすると問題視されていたオートバイを積極的に有効な都市交通手段と位置付けて、その利用の在り方などを検討した研究であった。

 

これ以後、IATSSの中でも日本で得られている成果や知見が、アジアで激化する交通問題、特に交通安全の面で活用できないかという観点から多くのプロジェクトが実施されるようになった。

 

IATSSのアジアを対象とする研究プロジェクトの特徴は以下の4点にまとめられる。
・アジア諸国における文化や状況などを深く理解することに努めている
・日本において実施されてきた多くのIATSS調査研究の知見に基づいている
・新たな視点での位置づけや日本に対するインプリケーションを得ている
・コニュニティーに根差した取り組みが多く行われている

 

例えば、東南アジアにおける情報共有型交通安全対策スキームの実施支援は、鎌ケ谷で成功した市民参加型の交通安全対策に関する一連の研究やヒヤリ地図作りに関する一連の研究といった、日本において実施されてきた調査研究の知見に基づき、タイ、マレーシアで行われたものである。

 

現在、モデル地区を対象とする交通安全対策ツールの開発、ガイドラインの作成によって、「現地化」と「水平展開」を目指していたが、本研究調査の成果を取り込む形で国土交通省やJICAが本格的な交通安全対策の推進することが決まり、今後の大きな社会貢献も期待されている。

 

つぎに、インド小規模都市群における地域に根ざした計画・デザインの提言と社会実装の取り組みでは、アグラを対象に3年間行ったコミュニティを対象とするストリートデザインガイドラインの作成を行ったが、現在は2期目に入っている。このプロジェクトの特徴は、インド工科大学デリー校(IITD)が活動を行い、それに対してIATSSが提案を行っていく体制にある。また、SDGsを強く意識しており、ストリートデザインだけでなく、大気汚染や交通事故を分析している。この取り組みによって、深い現状認識と本質的な問題の共有が出来たと思っている。

 

「カンボジア・プノンペンにおける高校生・大学生の二輪車利用実態に関する分析事例紹介」
吉田長裕

IATSS会員 / 大阪市立大学大学院准教授
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セーフシステムアプローチという新しい概念を途上国でどのように普及させるかを念頭に調査を行ってきた。今回紹介するのは、カンボジア プノンペンで多い高校生、大学生の二輪車の事故を減らすための糸口を探るプロジェクトである。

 

行動理由モデルを用いてアンケート調査と行動調査を実施した。交通心理面に着目して、なぜそのような行動をとってしまうのかといった理由とそれがワークショップで改善するかを考えた。カメラを付けて実際の運転状況を録画し、ワークショップを受ける前と後で、運転の仕方がどのように変わったかを比較した。

 

分析結果として、特に若者は、渋滞等によって時間通りにつけないということが急ぎにつながり、それが軽微な違反へとつながり、最終的に重大な違反を犯す可能性が高い傾向にある。また、危険予測等のコンテンツを提供したワークショップによって、運転行動が改善することもわかった。すなわち、カンボジアには運転者教育が重要であり、教育内容の充実を図り、規範意識を育てることが重要である。

 

結論として、免許制度、教習システム、教育内容について、もう一度考え直す必要がある。また、道路についても、インフラが十分に整っていない。また、セーフシステムアプローチは全く理解されておらず、軽微な違反が重大な交通事故へとつながるといったことが日常的に起きている。だから、セーフシステムアプローチの元となるSustainable Safetyの考え方に基づき、インフラを二輪車専用、自動車、歩行者で分けていくといった政策を提示していく必要がある。

 

残念ながら、現実と現状の分析とのギャップは非常に大きく、これには多大な研究支援が必要である。しかし、それこそがIATSSが行っていくべきことである。

 

「アジアの都市交通と交通安全についてのいくつかの論点」
中村文彦

IATSS会員 / 横浜国立大学副学長
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都市交通を考えるうえで4つのキーワードを提起する。WALKABLE、RELIABLE、ENJOYABLE、SUSTAINABLEである。

 

WALKABLEで考えるべきは、安全な空間の確保、適切な運用、公共交通との共存、道路地下化の工夫、水辺空間再生、熱帯気候対応である。

 

RELIABLEで考えるべきは、高架通勤鉄道、バス高速輸送システム、既存小型車両活用、オンラインバイクタクシーである。公共交通は、住民がそれを認識して、使い勝手を理解して、自分はこのように使うといったところまでいって初めて成立するのである。そうでない限り、車などの身近な個人の道具を使ってしまう。その意味で主観的な信頼が必要であり、そのためには法令遵守、混雑による遅れも勘案する必要がる。

 

ENJOYABLEで考えるべきは、海岸眺望の駅、鉄道駅構内市場、バスターミナル併設市場、朝市と街路、歴史的建築物と街路、公園と駅前広場である。

 

都市は、人間中心で、環境にやさしく、歴史に配慮したものであるべきだ。この考えに基づき、移動の自由度と選択肢を確保したうえで、安全で持続可能なモビリティの構築が我々の目標である。そのための重要な視点が先に挙げた、WALKABLE、RELIABLE、ENJOYABLEである。

 

SUSTAINABLEとは、環境と経済と社会がトレードオフを見合いながらバランスをとっていくことである。徒歩、自転車、公共交通を上手く組み合わせ、既存手段を有効利用し、高齢者、障碍者配慮を考える必要がる。この前提として教育、それぞれの交通文化がある。IATSSが果たすべき役割は非常に大きい。

 

討議
 

福田会員:多くのアジアの都市では、自動車やオートバイがいまだに急激に増え続けている。そこへ公共交通指向型都市開発(TOD)を行っている。鉄道が敷設され、沿線にコンドミニアムが次々と建設されている。しかし、実際にこの鉄道沿線に住む人々の多くが、鉄道を使わず自身の車を使っている。より車を使わない社会を実現するには、巨大な駐車場をいかに減らす、あるいは使いづらくするかについても考える必要がある。

 

中村会員:TODは、便利な公共交通の沿線に住宅をつくり、公共交通機関に基盤を置き、自動車に依存しない社会を目指すものだが、車を使った方が早い、公共交通自体の使い勝手に難がある等の状況では、住民は公共交通を利用しない。この議論においては、政策として駐車場をコントロールするのが得策だと思う。

 

司会・森本 章倫(IATSS会員、早稲田大学教授):移動の自由度、移動の選択肢を拡げていき、適切に需要を誘導していくことだと思う。一方で、相手の交通文化を理解したうえで施策を打たないと5年後、10年後に思わぬ方向に進んでしまうことが洋々として起こりうると理解した。

 

吉田会員:移動の自由度は重要な視点である。日本でも歩行者、自転車、自動二輪車のような交通弱者が、きちんと道路を使う仕組みになっていない。また、都市の観点では、道路は街路や幹線道路等、いくつかの機能ごとに階層的に分かれている。しかし、日本を含むアジアでは、そのことが十分に議論されていない。これから道路整備を行う途上国の意思決定者に、少しでも早くこの考え方を提言する必要がある。

 

司会・森本会員:日本には、道路をネットワークとして評価や整備を行う仕組みが十分になかった。道路整備を行う際にエリアごとに場当たり的に対応しなければならなかったのだと思う。これが生活道路で交通事故が減らない根本原因だと思っている。

福田会員:海外の交通安全の学会への日本からの研究発表は極めて少ない。また、世界の交通安全に関わる組織が集まる国際会議にもほとんど参加していない。日本は交通安全の研究の進め方を真剣に考える必要がある。1970年から9年間で交通事故死亡者を約半数に減らした実績やITARDAのデータは非常に有名であり、世界は日本に高い関心を寄せているがどの機関にアクセスして良いかがわからないと言われる。IATSSがこの部分において中心的な役割を果たしていくことを強く願う。

 

司会・森本会員:交通安全について3Eの他に共有できる概念があるのではないか。

 

吉田会員:一般的に言われている他の2つのEがある。一つ目はエンカレッジである。より安全な交通を推奨していく考え方である。利用者がリスクを適切に評価して、選択できる環境を提供する。つぎに、エバリュエーションである。自動車関係には膨大なデータがある。一方で、歩行者、自転車、自動二輪車についてのデータはほとんど無い。データが無いということは分析の対象外であり、すなわち存在すらしないということである。したがって、途上国において交通事故の件数だけがあがってきたときに対処法が分からない。まずは、こういった関連データを取り、世界の考え方を共有することが重要である。

 

中村会員:将来のビジョンが何か(ゴール)という議論とそのために使うプロセス上のツールの議論、さらに考える枠組みの議論がある。特にアジアでは、想定を超えた変化の速さに対応していく際に、ぶれないビジョンの共有が必要であると思う。

 

司会・森本会員:共有化された概念は絶対的に必要である。方法論は地域や文化によって異なる。それは各地域とともに考えていくことだと思う。

 

福田会員:タイで交通安全に取り組んでいるなかで、タイには個別の技術はあるが、それをまとめて交通安全の取り組みを行っていく部分が欠けているので、その部分を日本に援助してほしいと言われる。そのような要望に応えるために、鎌ケ谷モデルのような仕組みをきちんと整理して、外国に対して話せるようになっていかなければならないと思っている。

 

質疑応答

〇日本は、歩行者、自転車、自動二輪車の死傷者が全体の7割程もいる。これは交通先進国とは決して言えない。交通安全を他人事ではなく、自分事として考えて欲しい。

 

司会・森本会員:被害者になって考えることは非常に重要である。一方で、研究者、行政の人間としては、この問題を主観的で、客観的で、かつ総合的な視点で取り組む必要があると考えている。お三方から、社会実装、エビデンスの正しい理解、そして、街づくりという大きな視点のなかで交通安全を考え、快適性、楽しさ、持続可能性の観点から、相互に解を見出すことが重要であるとの示唆を頂いた。

 

閉会挨拶

北村友人

IATSS会員 / 国際フォーラム実行委員会委員長
東京大学大学院准教授

学際的に社会とつながりながら、自分事として捉え、「人」中心の安心安全な交通社会の構築を進めていくことが、当学会使命であると改めて認識した。今後も、市民、政策決定者、様々な企業の方々と一緒に研究を行うという超学際アプローチで活動を展開していきたい。

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