この度第42回日本呼吸器内視鏡学会学術集会を2019年7月4日(木)、5日(金)に東京ドームホテル(東京都文京区)において開催させていただくことになり、誠に光栄に存じます。
本学術集会のテーマは「離婁明視麻姑手」という福沢諭吉先生の「贈医(医に贈る)」の一節を戴きました。その意とするところは、「医学というものは自然と人間との限り無い知恵比べの記録のようなものである。医師よ、自分たちは自然の家来に過ぎないなどと言ってくれるな。離婁のようなすばらしい眼力と麻姑のような行き届いた手を持って、あらゆる手段を尽くしてこそはじめてそこに医業の真諦が生まれるのである」でありますが、その中でも「離婁明視麻姑手」の一節は明治の世にあって既に現代の内視鏡技術の発展に言及されているものと考えられます。翻って呼吸器内視鏡の世界に目を転ずれば、われわれは気管支鏡から始まって縦隔鏡、胸腔鏡と「離婁の明視」を手に入れ、更には胸腔鏡下手術、そして平成30年度からはロボット内視鏡手術が保険収載されるに至りまさに「麻姑の手」を手に入れました。このように先人たちが希求し続けた技術を手にした今、われわれはそれらの技術をいかに使いこなすかを問われているように思います。本学術集会をもう一度原点に立ち返ってそのことについて考える機会にしたいと思います。
現在、日本呼吸器内視鏡学会の会員数は6,700名を超え、呼吸器内科、呼吸器外科、放射線科、病理など広い範囲から医師、メディカルスタッフの人々が参加しています。扱う分野も単なる気管支鏡による診断・治療に止まらず、気管・気管支に関する再生医療を含めた基礎研究から喘息・COPDに対するinterventional pulmonology、気管・気管支病変に対する手術あるいはintervention治療、胸腔鏡を用いた胸膜疾患に対する診断・治療、更にはロボット手術を含む胸腔鏡下手術まで呼吸器疾患全般に対する基礎・診断・治療を広く扱う学会として成長を続けています。
しかし最近の科学技術の進歩は急速で呼吸器内視鏡を取り巻く周辺技術にも極めて短時日でAIなどからの新技術が取り込まれてきています。この速度には個々の医師や一施設の診療科が如何に努力しても追い付くのに困難を感じずにはいられないのではないでしょうか。本学術集会では会員の皆様が少しでも多くの新情報、新技術にその目と耳と手を使って接していただけるよう工夫致します。
一方でこれまで先人たちが培ってきた技術、知識を確実に次世代に伝えていくことも本学会に課せられた重要な責務であります。気管支鏡の操作の基本、基本的な所見の捉え方など重要な技術の習得についてはハンズオンや寺子屋などに十分な時間と場所を用意させていただく予定です。
多くの方々のご発表、ご参加をお待ち申し上げます。
帝京大学 医学部長